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望郷歌/1(「MAHOROBA」オウス×サダル)
貴方が命を懸けて護るこの国を、私はいとおしく思う。
目を細めながら今は遠い故郷をそこに見る。その姿に胸が締め付けられるのは、ヤマトを懐かしく思うからなのか、貴方を恋しく思うからなのか。
女達から次々と色とりどりの衣が手渡されていく。サダルは意気消沈していた。女性を美しく着飾らせる柔らかな衣が、男の自分に似合う訳がない。その上相手を誘うなどと…
「サダル、どうしたんだ」
サダルがはっと顔を上げると、心配そうな表情でオウスが見つめていた。
「オウス…」
思わずすがるような声でオウスの名を口にしてしまったサダルの沈んだ気持ちを知ってか知らずか、オウスは優しい笑みで話を続けた。
「サダルはどれを着るんだい?まだ決まっていないのなら、私がサダルに似合う衣を見立てるよ」
「…オウスが、私の」
「ああ。そうだな…サダルには涼しげな色もなかなか捨てがたいが、私はこの色が良いと思う」
そう言いながら、オウスはサダルの肩に一枚の衣をふわりとかけた。サダルの視界に映った色は、紅紫。
「…似合うだろうか」
「私の目を疑うのかい?」
「いや、そういうわけでは、」
「…サダルは、とても綺麗だ」
詫びようとしていたサダルの言葉を遮ったのは、己の頬に触れたオウスの手の感触と真剣な声だった。驚いたサダルがオウスの瞳の中に見たのは、偽りのない強いまなざし。
オウスは自分が見立てたことに満足していた。子供染みているかもしれないが、どんな小さなことでもサダルと関わっていたい。サダルの記憶の中に自分がいつも居たいと考えていた。本人は気付いていないだろうが、サダルは美しい。普段は感情を余り出さない彼がたまに見せるふとした微笑みは清楚な花のようだ。
オウスがサダルの魅力に気が付いた、というより、心を奪われたのかもしれないが――のは、クマソの征伐へ向かう旅に出る前日の宴の席であった。
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