君は僕のもの僕は君のもの
僕だけの人
僕と岩立は友達になった。

付き合ってみれば、岩立は卑屈でも臆病でもなかった。
ただ少しばかり、人との付き合いを苦手と感じる引っ込み思案な性分であるらしい。
彼は理知的な思考の持ち主で、大人びた少年だった。
裕福な家の出らしく、きちんとしつけられた仕草は美しくさえあった。
常に模範生であろうとし、成績も学年でずば抜けていた。

岩立はあまり僕を歓迎しない風だったが、やんわりと拒絶しても寄ってくる相手に諦めを覚えたようだ。

「清水は変わっているね。僕といても、何にも良いことはないのに」
「それは僕が決めることだよ。僕は岩立と一緒にいたい。君には迷惑かな?」
「まさか。嬉しいよ」

僕は誰に邪魔されることなく独占できる初めての人に、夢中になった。
僕は岩立を独占した。
所有権を握った。
岩立は僕としか話さない。
岩立は僕だけしか見ない。
岩立には、僕しかいない。
始終、岩立に接し、他人を排する喜びに僕は浸った。
このとき感じた以上の快感を、僕はいまだ知らない。

入学式での予想と反し、岩立がいじめに遭うことはなかった。
僕が側にいたからだ。
岩立以外の人々と、僕は広く浅い付き合い方を試みていた。
穏やかで人当たりの良い性格を演じる僕はどんな人間とも親しくなることができ、交遊関係も幅広かった。
一人に去られる度に新しく人を求め、クラスを越えて彷徨った小学校での苦い経験が役に立ったのだ。

僕と一緒にいる限り、岩立はただの大人しい太めの少年として存在を許された。
僕たちは目立ちもしないが無視もされない程度の地位をクラスで保っていた。
だが、だからと言って岩立は僕と共に在った訳ではないのは、彼の性格からも分かる。
彼は純粋に僕との交友を楽しんでくれていた。
僕と岩立は、やがて無二の親友となった。

親しくなってまず僕は、岩立のどもり癖を直そうとした。
僕といるときは平気なのだ。
緊張したり意識をしていると、出てしまう癖らしい。
だから岩立はあまり喋りたがらない。
僕は岩立の全てを独占したくて、もっと声を出してくれるよう、よくせがんだ。

「綺麗な声なのに、もったいない」
「綺麗?」
「綺麗だよ。ちょっと深みがあって響く、良い声だ」

本格的に変声期に差し掛かる前の岩立の声は少し高めで、貫禄のある体型のせいか、独特の響きを伴っていた。
その特徴のある声音は何も体型に起因するものではなく、彼が生まれ持った声質であるのを、このときの僕にはまだ知るよしもなかった。


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あきゅろす。
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