君は僕のもの僕は君のもの

ところで、僕は頭の良い人間が嫌いではない。
むしろ、独占はできないにしても、出来るだけ近付きたいと思う。
自分が馬鹿な欲求を隠し持つ馬鹿だと知っているから、知的な人に憧れみたいな感情を抱く。
僕は面倒事に関わりたくないという自分の主義に逆らい、彼の側にならいてもいいかもしれない、と考えを改めた。
単純だ。

「何だよ、友達いないって言ったでしょ。一緒に話してくれない?」
「え、でも。ぼ、僕なんか、その…」

まごつく岩立の顔をじっと観察する。
顔立ちは多分、悪くはない。
だが、だぶついた顎や垂れた頬の線が、それを台無しにしていた。

暫しぶしつけな視線を当てていて、ふと、僕は彼の瞳が気に入った。
全体的に腫れぼったくゆるんだ印象がある岩立の、唯一の美質。
切れの長い、すっと通った一重。
夏場には近付きたくない暑苦しいなりをしているのに、ただ双眸だけが流水のごとく涼やかだった。
意外にも長い睫毛が瞬く様は、蝶の羽ばたきにも似ていた。
僕は蝶が好きだ。
特に、ピンで貼付けにするのが好きだ。
美しい翅を誇る蝶たちは、いつだって僕の重く澱んだ独占を優しく許してくれた。

岩立の蝶の瞳が瞬きを生んだ。
その瞬間、僕は彼にしよう、と決めた。
天啓が下ったように、僕の頭にひらめいた考えだった。
涼しい蝶の瞬きを持つ彼を、僕だけの人にしよう。

彼はたしかに太っている。
背も低い。
髪が縮れている。
人の顔を伺う卑屈な性格だ。
だが、それが何だと言うのだろう?
彼は頭が良い。
現実を見据えることが出来る。
人を気遣う優しさを見せる。
蝶の瞳を持っている。
僕にとっての価値は十分すぎる。

何よりも、彼以上に僕の欲望を受け止めてくれる人物はいるだろうか。
冴えない容姿の岩立。
人に蔑視される岩立。
彼ならば、額に飾った蝶たちのように、僕だけのものになってくれそうだ。

独占を許すのならば誰だっていいのか、と思われてしまうかもしれない。
成る程、当たらずとも遠からずだ。
しかし、僕は彼を選んだ。

蝶のように長い睫毛を羽ばたかせる、涼しい瞳の持ち主である岩立初音、その人を。


[*←][→#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!