君は僕のもの僕は君のもの
蝶の瞳をもつ少年
「春臣、待ってくれ!」

初音の声を背後に聞きながら、僕は足早にその場を去ろうとした。
全部が僕のためだって?
僕のために変わったって?
彼は何を勘違いしているのだろう。
僕はお世辞にも美しいとは言えない彼をこそ、求めたのに。



何故、僕が彼の体重にこだわるのか。
別に体重自体が重要なのではない。
僕は太った人しか愛せないような、特殊な嗜好を持っている訳ではないし。
問題は、彼の容姿そのものにあった。
だが、何よりの原因は僕の性格によるものだ。

僕は昔から、とっても独占欲の強い子供だった。
いや、強いなんてものじゃない。
気に入ったものに向ける執着の度合いは、異常とさえ言っても過言ではない。

幼い頃は、まだそれでも良かった。
好きなおもちゃやお菓子は逃げなかったし、もし誰か他の子供に奪われたとしても、代わりはいくらでもあった。
また、執着していたものを攫われ、沸き起こる憎しみから相手に暴力を振るったところで、子供同士の他愛ない喧嘩とされるだけだった。

だが、多少なりとも育ってしまえば、そうはいかないのが世間というものらしい。
僕が何かに向けて所有権を主張しようとすると、周囲は僕をわがままだ、自己中心的だと責めた。
資本主義の社会においても、独占行為は疎まれるようだ。
僕は己の欲を解消することが出来ず、持て余すしかなかった。
外見的にも能力的にも特に優れたものを有していない僕は、占有したいという気持ちを発揮できる機会が極端に制限された。
しかもさらに都合の悪いことに、子供時代から抜け出した僕の執着の対象は、物言わぬ玩具や菓子から、個々の意思を持つ人間へと移り変わってしまっていた。

結果は最悪だ。
彼女や友達を作っても、僕の普通ではない独占欲を前に、皆逃げてしまった。
小学校時代の僕が淋しい思いをしたのは、偏にこの欲望のせいだ。
ひとたび僕が正直な気持ちを示すと、誰もが怯え慄き、遠ざかった。
だから、多少痛い目を見た僕は、もう少し上手く立ち回ることに決めた。

人を独占することは難しい。
繋がる人間関係までを断ち切ることは、もっと難しい。
では、どうしよう。
誰か一人の人間を僕だけのものにするためには、一体どうしよう。

そうだ、と僕は妙案を思い付いた。
誰も欲しがらないような人を独占すればいい。
そうすれば、誰も僕から取り上げようとはしないだろう。
抱き込むものに大多数にとっての価値があろうがなかろうが、興味はない。
僕は自分のためにただ一人の人を欲するのだ。
他人なぞ関係ない。
何か僕だけが独り占めできるものがあれば、それで良かった。

そして入学した中学で、僕は彼に出会った。


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