君は僕のもの僕は君のもの
君と在る未来
春が来て、僕と初音は同じ高校に入った。

私立藤ヶ丘学園。

青春も何もない、男だらけの男子校だ。
小、中、高と続くエスカレーター式の制度であり、僕たちは高等部から入学した外部生となる。
裕福な家の子弟が多い学校らしく、設備だけは立派だった。
その代わり、寄付金によって左右される事柄も多くあるようだ。
名家の子息の優遇や不祥事の揉み消しなど、数え上げれば切りがない。
頭が悪く、ついでに素行も悪い金持ちのボンボンにとっては、居心地の良い学舎なのだろう。
そんな、やたらと生徒の数だけは多いマンモス校で、前途溢れる若い僕たちはこれからの三年間を過ごすこととなる。



「ねえ、初音。約束を忘れていやしないよね?」
「ああ、春臣。もちろんだ」

高校に入っても、僕と初音の関係は変わらなかった。
僕の言いつけに従う初音は、誰とも親しくなろうとせず、喋ろうともしない。
長身と美貌を誇り、しかしひたすら黙する初音は、クラスの中で、いや、学年の中でも異彩を放つ存在だった。

「ねえ、初音。君は番長らしいよ」
「何だそれは?」

目立ちすぎる初音は、何度も柄の悪い上級生たちに呼び出された。
だが、その全てを彼は返り討ちにした。
聞けば、ダイエットのために通っていたジムの奨めで、スポーツの一環としてボクシングや空手を習い始め、今でも練習に通っているらしい。
格闘技がそんな簡単に身につくものなのかは知らないが、初音に敵う不良は藤ヶ丘にはいなかったようだ。

「ねえ、初音。僕の予言は当たったみたいだ」
「うん?どういう意味?」

初音は学校中から恐れられ、畏怖される人物となった。
だが、寡黙ながらも誠実な彼の人柄は言葉がなくとも伝わるものらしい。
困っている生徒を助けたとか、相談に乗ってくれたとか、親切にしてくれたとか、真偽のほどなど分からない噂が恐ろしく浮上し、校内を駆け回った。
次第に彼は尊敬され、崇拝される対象へと移り変わっていった。

中学と変わらず学業面でも輝かしい成績を誇る初音につられるように、学校全体の偏差値もうなぎ登りに上がったらしい。
校風も随分と雰囲気を異にしていた。
頭も素行も悪いボンボンたちは、頭も素行も大変結構な良家の御子息へと知らぬ間に生まれ変わっていた。
たった一人の人間がここまでの影響を及ぼすものだろうかと僕は呆れたが、事実、藤ヶ丘を根底から変えたのは初音だった。
生徒からも教師からも厚い信頼を受ける初音は、一年にして学園の象徴として威光を放つこととなる。

『高校に行ったらね、今よりもっと、みんなが君に夢中になると思うよ。女の子にももてもてだよ。ちやほやと持て囃されて、夢みたいな学園生活が待っている』

校内に女の子はいないにしても、初音の話を聞き付けて校門前に集まる他校の女子高生は数多い。
中学三年の冬の日に、僕が初音に告げた台詞は、あながち外れたものでもなかったのだ。
未来なんて、どうなるか誰にも分からない。


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あきゅろす。
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