君は僕のもの僕は君のもの

細かな真白の粉雪が僕たちを包むように音もなく降り積もる。
僕は腰に縋る初音の腕を外させ、寄せるさざ波のような癖のある漆黒の髪を見下ろした。

すぐ傍らを名も知らぬ誰かが足早に過ぎ去ってゆく。
僕たちを奇異に思いながら通り越し、そして次の瞬間にはもう忘れているような他人に、気遣う必要などあるものか。
周りに誰がいようと、誰が僕たちを見ていようと関係ない。
僕たちには互いしか見えていない。

現に、絶望に黒ずんだ瞳が白い雪煙の中、盲目的に僕を見つめてくる。
虚ろな双眸で、それでもひたむきな透き通る眼差しをぶつけてくる彼の頬をそっと撫で、溢れる悲しみの雨雫を拭ってやる。
蝶の翅よりも軽い、上から慈悲を与える手つきだ。

「僕は君なんていらないよ」
「……う、うん」
「昔のデブで不細工で友達のいない君だから、自分のものにしたかったんだ」
「うん」
「今の綺麗になっちゃった君はいらない」
「うん」
「これだけひどいことを言われても、それでも僕のものでいたいの?」
「うん」
「馬鹿じゃないの」
「うん」
「そんなに僕のことが好きなの」
「うん」
「ホモかよ」
「うん」
「僕以外の男でもいいんじゃないの」
「春臣じゃないと駄目だ」

ああ、ああ、その言葉。
僕が一番欲しい音を知っている、初音。
僕の初音。

「本当に僕の言うことを聞くの?」

こくりと子供のように頷く彼。

「僕以外、誰とも仲良くしない?」

続けて頭を上下させる。

「僕以外と、喋っちゃ駄目だよ?」

迷わず首を縦に振る。

「僕以外を見たら、殺す」

一心に僕を映す絶望に暮れた彼の瞳に、希望が射し始めていた。
何もかもを許し抱擁する無垢な白が静かに舞い散ってゆく。

僕は最後に聞いた。
これが彼に与える、最期の機会だった。

「君は僕のものになるの?」

潤んだ蝶の瞳が僕に絡み纏わり、縋り付く。
紛れもない肯定だった。


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