君は僕のもの僕は君のもの

耳触りの良い言葉に騙されていたのだと分かったのは、それから三ヶ月後だった。



「藤ヶ丘学園?初音…岩立がですか?」
「何だ、清水は知らなかったのか。てっきり二人で示し合わせていたと思ったんだけど」
「だって、岩立の偏差値で、そんな…」
「なあ、俺も言ったんだよ。勿体ないって。なのに岩立の奴、どうしても藤ヶ丘に行くって言って、聞かなくてなあ」

なんと、彼は僕と同じ受験校を志望していた。
山のように押し寄せる推薦の枠や先生方の期待を裏切り、彼は僕の頭でやっと入れるような、二流の男子校に行こうと言うのだ。
僕との関係を中学限りのものにするなんて、彼はかけらも考えていなかったのだ。
僕は初音との関係の終わりを想定した上で、また彼のような人物を探すために、つまらない男子校を希望したというのに。
これでは何の意味もないではないか。

謀られた。
初音は僕を騙した。



たまたま担任から初音の志望校を聞いた今日、僕はすぐさま彼を学校近くの喫茶店に呼び出した。
受験期も近付き、自主登校となった学校では会うこともなかったからだ。

話を切り出した僕に、初音は驚き嘆いた。
自分の偽りを棚に上げ、僕を責めるそぶりさえ見せた。
その事実が、僕を激昂させ、喫茶店での凶行に及ばせた。
本当に勝手な話ながら、僕は他人を支配することに悦びを覚えるが、逆に支配されることには嫌悪感しか抱かない。

初音とは終わりだ。
もう一緒にはいられない。

これまで隠しに隠してきた本性を晒し、僕は初音に別れを突き付けた。
我慢の限界が訪れたのもある。
僕はもう、変わり果てた初音の側にいるのが辛かったのかもしれない。





「春臣、話を聞いて」

二人を万華鏡のようにくるくると包み取り巻く過去の回想から立ち戻った僕は、目の前に佇む辛そうな初音を視界に映した。
その背後に見える、初音に視線を奪われている人々も、一緒に。

どこにいたって、誰かが彼を見る、彼を好む、彼を奪おうとする。
最低ランクから最高ランクへと、最下層から最上層へと生まれ変わってしまった初音を、まあまあ普通と評価される僕が、自分のものだと声高に主張することは出来ない。
そんな事態が訪れないよう、僕は初音を選んだ筈なのに。
本末転倒もいいところだ。

こんな初音は、僕のものではない。


[*←][→#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!