君は僕のもの僕は君のもの
恋のかたち
僕と初音は、そうして恋人同士になった。

初音は僕を以前にも増して大事にしたし、僕もより初音を占有しようと依存を深めた。
僕を喜ばせようと、初音は手を変え品を変え、僕を楽しませてくれた。
僕はと言えば、見栄えの良くなった初音に女の子たちが寄ってくるのにはハラハラしたものの、答えるそぶりも見せない彼の姿に、さらに独占の欲を満たされた。



あるときは、講義を終えた僕が塾の外に出ると、鼻を赤くした初音がガードレールに寄り掛かって待っていた。
僕を見つけると立ち上がり、周りに集まっていた女の子たちを避けて、こちらに歩み寄ってくる。
驚いた僕がどうしたのかと尋ねると、彼は嬉しそうに笑って答えた。

「春臣に会いたかったから」

彼の家から僕の地元へは電車でも一時間半はかかる。
なのに、僕に会いたいその一心で初音は、寒空の下で僕の帰りを待っていたらしい。

「馬鹿だな。君も受験生だろう、風邪でも引いたらどうするんだよ」
「でも、春臣に会いたかった」

子供のように幼い言葉を繰り返す初音を、僕は大事に思った。
初音が僕のものであるのはあと半年もないが、せめてその間はずっと彼を大切にしようと心に決めた。



初音は時折、僕に触れようとした。
手を繋いだり、頬に唇を掠めたりと些細な接触であったが、その気のない僕には心地良くなかった。
だが、あと数ヶ月の付き合いかと思うと、こんなにも尽くそうとする初音が哀れにもなり、僕は彼の好きなようにさせた。

まさに、僕たち二人は蜜月を迎えていた。



「春臣、好きだよ。君が好きだ」
「そう、ありがとう」

僕の手を握って薄い肩に頭を押し付け、初音はよく僕に愛の言葉を捧げようとした。
誰もいない放課後の教室や、狭く小さな僕の部屋。
人目のない公園の隅っこなどでひそやかに行われるその行為は、神聖な儀式にも似ていた。

触れるところから互いの気持ちが伝わればいいとでも言いたげに、初音が猫みたいに額を擦り付けてくる。
艶やかな髪が首筋を掠めて少しばかりむず痒いが、ブレザーの肩口に掛かるその重みを僕は黙って甘受した。

「僕は幸せだ。恐ろしく幸せな人間だ。君が僕を自分のものにしてくれて嬉しい。僕を独占したいと思ってくれて、嬉しい」

シャツの袖口にわずかに潜り込んだ指先で、僕の手首の皮膚をゆっくりと撫ぜる初音。

「君は僕のものだから」
「そう、春臣。僕は君のもの」

美しく透き通るような容姿の彼を、射し込む早々の落日をせかす冬の夕焼けが、祝福するようにまばゆく照らし出す。
天高くなった太陽さえ、初音を愛する。
きらきらと輝く眼球に差し込む光が、彼の闇よりも黒い虹彩を心なしか薄い色に透かした。
夕日にさえ魅入られた目蓋でうっとりと蝶の瞬きを落とす彼を、僕は不思議がった。

「君は僕からの『好き』を欲しがらないね」
「いいよ、無理には求めない。いつか君が僕を好きになってくれたら、言葉にしてくれればいい」
「そう」

ありえないことだと内心ごちる僕を知らない初音が、柔らかい表情で唇を緩めた。

「僕はね、春臣。君のものだと主張されることを、愛と同義だと感じるんだ」

都合が良い考え方だと僕が肩をすくめると、顔を上げた初音は幸せそうに頬を染めて瞳を細めた。
ふふっ、とくすぐったい笑いを零し、唇を寄せてくる。

「君が好きなんだ」


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あきゅろす。
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