君は僕のもの僕は君のもの

僕はただ初音を独占したいだけなのであって、そこに恋だとか愛だとか言った湿った感情は挟んでいないのだ。
独占欲と性欲が繋がっていないのかと言われれば、微妙だ。
誰かを独り占めする現象に、僕は興奮もするし、深い恍惚を得ることもある。
その欲は、満たされるまで悶々と持て余してしまう。
だがしかし、その対象とする人物に欲望を抱いている訳ではなかった。
僕が欲するのは、誰かを占有し、僕だけのものにしたという事実そのもの。
過剰な独占欲と反比例するように、僕は下半身に関しては非常に淡泊な域にあった。

初音が告白でもしてきたらどうしよう。
僕たちの所有、被所有の心地良い関係は壊れてしまうのだろうか。
僕は初音に恋愛感情を抱いていない。
告白を了承することは出来ない。
だが、もし断れば、僕だけのものである初音は、いなくなってしまうのだろうか。
僕から離れてしまうのだろうか。
では騙すか。
好きでもないのに、初音と付き合うのか。

どう考えても、僕たち二人の関係には滅びの気配があった。
初音を独占できるのも中学の三年間で終わりだろうと考えていたので、少しばかり早い終幕に僕は落ち込んだ。



夏休みの間、僕は受験勉強のために塾へと通い詰めた。
やれ模試だ、やれ夏季講習だと塾通いに明け暮れる僕とは違い、元来著しく成績の良い初音は特に勉強に差し詰まってもいないらしく、よく会えないだろうかと誘いを掛けてきた。
さすがの独占欲も引っ込むほど忙しく、また僕と初音の家が気軽に会えるような距離間になかったのもあり、僕はそれを断り続けた。
自然、初音とは一ヶ月半近く会うこともなかった。



長い休みが明けて久しぶりに学校へ足を運ぶと、ある席に人だかりが出来ていた。
あそこは初音の席なのに、変だなと僕は首を捻った。
人垣の間から覗くと、やけに見目の良い見知らぬ男子生徒が座っている。
この時期に転校生かと訝しんだが、それより一月ぶりの初音に早く会いたくて、僕はきょろきょろと視線を配った。
初音、僕だけの初音、どこにいるんだろう。

「春臣」

名前を呼ばれただけだったが、僕にはすぐに初音の声だと分かった。
夏前よりも少し低さを増しているものの、不思議と耳に残る響きを奏でる初音の声音を、この僕が聞き違える筈がない。

「初音?」

おかしい。辺りを見回しても、初音の姿が見当たらない。声が聞こえたのに。

「春臣」

もう一度呼ばれ、僕は音の流れてきた方角へと顔を向けた。
そこには例の転校生がいた。
騒ぎの渦中の彼が、僕を見てにっこりと笑う。
僕はぞっとした。
全身から血の気の引く思いだった。

見知らぬ彼の笑い方は、初音のそれとそっくりだったのだ。


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