迷い鳥の飛ぶ空は

健が席を立って二、三分経ったとき、突然居間の電話が鳴り出した。
電話のディスプレイを覗くと、携帯の番号が表示されている。
この固定電話には登録されていない先からのようだ。

「健! 電話が鳴ってるよ」

慌てて呼びかけても返事はない。
寝室のドアは閉まっているし、押し入れの奥を探していてこちらの声が聞こえないのかもしれない。
直接知らせに行こうかどうしようか、庸介は迷った。

電話の呼び出し音は、いっこうに切れるそぶりを見せない。
あまりにもしつこく鳴り続けるので、次第に不安になってくる。
もしかすると、仕事に関する急ぎの用かもしれない。
呼びに行っている間に切れてしまうのを恐れ、庸介は受話器を手に取った。



「はい、浅木です」
「――っ……」

電話越しに息を呑む気配が伝わってくる。

「どちら様ですか?」

なかなか答えない相手に、庸介は気付いて言葉を変えた。

「ああ、たけ……浅木はただいま席を外しておりまして、代わりに出ました。俺、浅木の友人です。浅木を呼んできますか、それともなにか伝えておきましょうか?」
「――…、…」

電話の向こうで、小さな囁きが聞こえたような気がした。
刹那、ぞくっ、と庸介の背筋に寒気が走る。
理由の知れない感覚に庸介が言葉を失っている間に、電話は唐突に切れた。



それから五分ほど経ってから、健が居間に戻ってきた。
ミニサイズの小さなアルバムを手にしている。
思い出の写真を見て懐かしかったのか、出ていったときとは打って変わってにこにこしていた。

電話の横に立っている庸介に気付き、不思議そうに首を捻る。

「なに、電話でもあったん?」
「あ、ごめん。勝手に取ってしまった」
「別にかまへんよ。誰からやった?」
「分からない。無言電話だった」

あの一瞬の寒気を思い出して腕をさすったが、一つの可能性に気付いて声を上げる。

「もしかして、例の東京の親戚の人だったのかな」

いきなり本人以外の人間が出たから、驚いて思わず切ってしまったのかもしれない。
だとしたら早く健にかけ直してもらわなければ。



「健、この番号、知ってる?」

履歴画面に映る番号を見た途端、健は顔をしかめた。

「家の電話に来たんか?」
「ああ」

険しい顔つきで、健がポケットに入れていた携帯電話を開いた。

「くそ、電源切ったままにしとった」


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あきゅろす。
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