迷い鳥の飛ぶ空は
孤独
健は言った。

「庸介のことが、好きや」

庸介が答えた。

「俺も健のことが好き」

そのとき胸に咲いた感情を、忘れない。





「なあ、庸介。お前メール見てなかったんか?」
「……メール?」
「せっかく送ったったのに。これじゃ意味ないやないか」

梟のストラップのついた自分の携帯を掲げるが、相手の反応は鈍い。
なにより一週間ぶりに訪れた恋人の部屋の惨状に、浅木健は呆れて物が言えなかった。

繊維が縺れるまでびりびりに引き裂かれ、ぼろ布のようになったカーテン。
引き倒され土を零す、生々しく幹のへし折れた観葉植物の鉢植え。
画面に大きな亀裂の入った薄型テレビは逆さまに転がっており、ケーブルはめちゃくちゃに引き抜かれ、コードを絡ませている。
白い壁やオーク素材のドアにはなにかをぶつけたへこみが深く刻まれ、クローゼットの中身もあちこちにぶちまけられている。
きちんと整頓されて見晴らしの良かった広い室内は、まるで強盗でも入ったかのような騒ぎだ。



(こいつもたいがいやな……)

めくるめく混沌の中、真ん中から折られた携帯電話が投げ捨てられているのを見つけ、健は己の失敗を悟った。
恋人と通話が繋がらなかったのはこのためか。
引き攣った表情のまま、冗談めかして肩を竦めてみせる。

「あー、メール見なかったんやなくて、見れなかったんやな」
「メールなんて、見てない……」
「いや、これじゃ見れんやろ」

これ、と哀れにも真っ二つにされた携帯の残骸を拾い上げて、広い部屋の隅でうずくまる恋人に示してやる。
自分でも視線を落として、へえ、携帯って折ったらこんな風になるんだ、と物珍しげに観察する。
分かれたパーツは中から飛び出たコードでかろうじて繋がっているが、これではもう使い物にはならないだろう。



「もったいないことするなや。高かったんやろ、この携帯」

最新機種の悲惨な末路に、健はため息をついた。
一方、壁に寄り掛かる彼――健の恋人である播摩庸介はぼんやりと霞がかった瞳で、文明の機器であった物の成れの果てを眺めている。

「いらいらして……思わず八つ当たりした」
「だからってなあ、やり過ぎや」

頭を振り、染めたように鮮やかな鳶色の髪をかき上げて健は苦笑した。
週末の約束を反古にしてしまっただけで、このざまだ。
もはや笑うしかなかった。


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あきゅろす。
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