迷い鳥の飛ぶ空は

「そう拗ねないで。手加減はしたよ」

二人して欲望に身を任せた後。
子供でも宥めるように髪を撫でられたが、健は別に拗ねているわけではない。
まんまと庸介の策にはまってしまったのが悔しいだけだ。
いくら常よりは激しさのない行為だったとしても、身体への負担がまったくないわけではない。
明日は平日だっていうのに、これだから学生は……。

「健もするのは好きなくせに。身体の相性がよかったから、俺と付き合おうと思ったんだろう?」
「……ちゃうわ。ちょうど前の男と別れたばかりやったから。んでもって、お前が食いたくなるくらい可愛いらしかったから。俺は騙されたんや」



顔を背けた相手からのつれない返事にふうん、と庸介は唇を吊り上げる。

「責任取ってくれないの?」
「その話まだ続いとったんか」

首を振り、自分の方にシーツをたぐり寄せる。

「嫌や。掘られた俺のどこに責任があんねん」
「俺をこの道に目覚めさせた責任、とか? 取ってくれたら素敵なプレゼントがあるよ」
「なんや?」

現金にも振り向いてきた健に笑い、庸介はその額に口づけた。

「俺を丸ごとプレゼント」
「……寒っ! アホな、意味分からん!」

遠慮なく肩を叩いて笑い飛ばす。
出会った頃は暗い表情ばかり浮かべていた恋人が、こんな下らない冗談を言うようになったことが嬉しかった。



健は犬でもかまうようにわしわし庸介の頭を撫でる。

「こんな大きい奴をもろても置き場所に困るわ〜」
「もらえるものはもらっておきなよ」
「俺はタダのもんはもらわん主義や。――タダより怖いもんはないんやで、庸介」

それは違う、と庸介は思った。
健が庸介にくれる愛は、熱は、想いは、すべて無償だ。
これ以上優しいものなんて、この世にはない。
それがたとえ有償であっても怖いことなどあるものか。
健を得るためなら、庸介はきっとなんだって差し出せる。



「タダが怖いなら、俺に値段をつけたらいいのかな」

庸介の戯れ事にくくっと健が笑い、その振動がくっついた胸にも響く。

「あんまり高いと出せんぞ。俺、今月は苦しいからな」
「健」
「なに」
「だから、健だよ」
「はあ?」

わけが分からない健は首を傾げる。
子供みたいな仕草さえ愛しくて、庸介は腕の中の大事な存在をそっと抱きしめた。


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