迷い鳥の飛ぶ空は

「庸介は、ちょっーと冷たくなってしまうとこがあんねんな。人見知りというか、心の壁を作りよる。ほんまは優しいくせに」

むっつりと黙り込む庸介は視線を斜めに逸らして、聞こうともしない。
こんなに強情で愛想がなくて大丈夫なんやろうか。大学でうまくやってけとるんやろうか……。

庸介の人間関係が心配になった健はその肩を掴み、じっと覗き込んだ。



「お前、大学に友達はおるんか」
「なんだよ、急に」
「いやあ、なんとなーく気になって。で、どうなん?」
「それなりにはいるよ」

本当だろうか、と健は首をひねる。
二人でいるときに庸介が携帯を弄ったり電話したりするところを見たことがない。
平日だって講義が終わればすぐ健の部屋に来ているようだし、会話の中に友達の名前が出てくることも少ない。
健と会わない間に適当に付き合いをこなしているのかというと、そう器用な奴でもないし……。

「じゃあ女の子とは遊ばへんの? 合コンとかサークルとか、大学なら出会いなんていーっぱいやろ。そこんとこどうなん?」

実は健が一番気になっているのはこの辺りの話だ。
この繊細に整った外見に、クールな性格。
間違いなく、女の子たちにもてまくっている。



ちょうど今日、呼び止められたことを思い出して庸介はひそかに瞬きをした。
なにも疚しいことはしていないのに、なぜか後ろめたい気分になる。

気まずさを振り払うため、返す口調は少しぶっきらぼうになった。

「だから、突然なんなんだよ」
「なーんとなくや、うん。一応、浮気調査みたいな?」
「俺は健と付き合ってるだろ」
「世間にゃバイの人間も結構おるんやで。かくいう俺もそうやし」

ぱちくりと庸介は意外そうに瞬きをする。
健から誘った関係のため、生粋のゲイだと思い込んでいた。

「そうなのか?」
「ああ、女もいけないことはない。でも男の方が好きやから、ゲイ寄りのバイやな」



庸介は少し間を置き、「俺は多分、女は無理だと思う」と低く呟いた。
無意識に服の上から二の腕をさする。

「きっと女は抱けない。苦手なんだ。特に若い女は近付くのも、話すのも辛い」

「だからって男が好きなわけでもないんだけど……」と続く言葉に、えっ、と今度は健が声を上げて庸介を凝視する。

「なに」
「え、お、男は好きやないてお前、あのバーにおったやないか。まさか、そういう場所って知らなかったんか?」
「そうだと知っていたから入ったよ。女は無理だと思ったから、あそこに行ったんだ。男は健が初めてだった」
「んなアホな」

庸介との初めての夜を思い出し、健は絶句した。
溶けるように優しい愛撫とこちらを追いつめる激しい動き。
快感を探る指はすぐにいくつもの秘所を暴いていった。

あれで男が初めてだとは……こいつ、元々そっちの才能があったんじゃないか?


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