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夢の末路を辿る



刀が皮膚を突き破る感覚に快感を見出だしたのはいつの時だったろうか
ぞぶりと深まる肉の裂け目に、自然と口角が上がったのを覚えている
そのまま手に持っている刃物を横に動かすと面白いくらいにびくりと痙攣する肢体に喉を鳴らしたのはどれほど前だったか
宙に舞う鮮血が自分が着ている服を汚していく様が愛おしく、同時に憎らしかった

眼前で夥しい程の血を流す人間はもう既に事切れているのだろう
けれど僕はこのどうしようもない憤りを佗助を握る腕に篭めてぴくりとも動かない屍にぶつけた
目を開けたまま死んでいる様は何とも滑稽で知らず知らずの内に喉から笑いが漏れる
何をするでもなくそのままぼうっとしていると砂を踏み締めるような、擂り潰すような。そんな曖昧な音が聞こえた

「市丸隊長…どうしてここに、」

「用がなかったら来たあかんの?」

至極胡散臭い張り付けたような微笑みを浮かべる市丸隊長をゆっくりと振り返り見つめるとそれは更に口の端を吊り上げて楽しそうな、恐ろしいような、おかしな表情をした
辺りに散らばる肉片、赤い鮮血をぐちゃぐちゃと何の躊躇いもなく踏み付けながら僕に近付く
ふと先程切った男の残骸を見て、えぐいなあ…と言いながらにやりと笑った
一歩、一歩と踏み出す度に粘着質な音が響いて。
それに比例するように隊長の足袋は赤く汚れていった

「あかんやん、ぐちゃぐちゃにしたら
話聞こ思っとったんに。なあイヅル」

「……すみません」

舐め廻すような視線を遣しながら屍の頭蓋を踏み潰す
ばきりというような、けれどぶちゅりというような独特の音に思わず顔をしかめた
それに気付いた隊長はくすりと笑いながら砕けた頭蓋を蹴り飛ばした
からんと音をたてて転がるそれは酷く醜く汚らしい
先程までは自分もそれを触っていたのだと思うと吐き気がした

「…もう終わったみたいやし、早いとこ帰ろかイヅル」

「、はい」

いつもと変わらぬ顔をした隊長の後に続いていくと突然隊長がくるりと振り返り、僕の耳元で甘美に囁いた


夢の末路を辿る
いつまでも耳に木霊するその声は、



企画:ジレンマ様に提出
090422 仄織


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