4
「ただいま!」
「わっ!?何だ月兄か、びっくりしたあ」
「悪い。急いで帰ってきたから」
「?‥なんかあるの」
「いや、ただ早く帰ろうと思っただけだよ」
お前に早く会いたかったなんてセリフ、死んでも言えない。…っつか、言おうと思わない。キャラじゃない。
「そうなの?」
「そうだよ」
クスリと笑う笑顔を向けられ、つられて笑顔になる。
―要…1%どころかほぼマイナスに近いぞ。
柚に想いを告げれば、満面な笑顔をよせてくれる信頼も兄としての場所もなくなる。
言わない方がマシだ。
香月は、玄関から一直線に自室へと向かった。ドアを開けるといつもの見慣れた風景が広がっていた。
モノトーンでまとめられた家具。唯一華やかな物と言えば、美大で作った油絵や白い石の固まりで彫られた彫刻くらい。
黒い机の右横のかすかなスペースにカバンを置き(っとゆうか放り投げ)、シングルのベッドに寝っ転がった。
…………コンコン
「ん?」
ドアがゆっくりとしたリズムで叩かれた。
「月兄、入っていい?」
いいよと言うと、ドアが開いてエプロン姿の柚が顔を出す。
「どした?悩み事か?」
「ううん!‥あの、後ででいいんだけど、買い物、一緒に行かない?」
少し照れたように‥それでいて微笑みを浮かべる聞き方‥
―断る理由なんてサラサラ見つかりません。‥ってか、可愛すぎます…
「いいよ」
「ホントっ?」
「うん」
「良かったあ♪今日、たくさん買うものあるから困ってたんだ!」
新妻のようにはしゃぐ柚
‥‥妄想はダメだ!速まるな俺!!
自身の思考と戦っているうちに柚は後でねっと言って、俺の部屋を出て行ってしまった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!