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血の繋がった兄弟…
一番近くで繋がっているけれど
一番触れ合ってはいけない関係
「香月!おい、香月!!」
背後からの声にハッと我にかえる。
「‥何だよ」
「何だよじゃねぇよ。ボーっとしやがって。携帯のバイブ、鳴ってるぞ」
バイブが振動しているのか、カバンからブーって音が聞こえる。
「ああ」
「‥ったく!キャンパスばっか見てんじゃねぇよ。1日終わっちまうぞ」
「悪い。ちょっと、疲れてんのかボーっとしちまって」
気がついたら大学にいた。隣には友人の要がたっていた。
キャンパスは真っ白。
今日は筆が進まない。
何か描かなきゃ今日学校へ来た意味がない…
キャンパスに描くのを止め、スケッチブックに切りかえ、鉛筆を握る。
部屋には、俺と要の2人だけ。部屋中に、俺がたてる、鉛筆とスケッチブックの摩擦音が聞こえる。
黒い炭素の固まりでどんどん染められる。
「何描いてんだ?…人??」
「んー」
「誰?それ」
「んー‥人間」
「人間なのは香月が描いたその絵見ればわかるし!誰って聞いてんの!!」
「マジ?上手い?そりゃあ、俺油絵科では
トップだし」
「会話のキャッチボールが成り立ってない‥。それに香月はどこの科行ってもプロ並みの才能だろうが‥ってか、その子誰?」
「………大切な子」
香月は、少し怪訝そうな顔をした。
「彼女?」
―要のヤツ、柚を女だと思ってる?
「…プッ」
「違うの!?」
「ああ……俺が片思い中」
「香月が?」
「ああ」
「初恋じゃない?(笑)」
「何故笑う…///」
「だって‥香月が恋?‥‥あわなすぎる」
美大の中でも家の中でも、そこまでテンションが低く(それが普通)、性格もクールだと言われてるため、どうしても恋というワードにはあわないそうだ。
「香月が照れてるなんて珍しいよな‥ってか、見たことねぇ」
「…別に照れる話題なんてなかったし」
話しながら鉛筆を進める。
「で、香月はその子に告白すんの?」
「は?」
「だから!その片思いをしてる子に、香月君は告白すんの?」
―告白?柚に?
………
「したいけど。無理だ」
「‥え?何で??‥もしかして、恋人いるとか?」
「いや、いないと思う」
「じゃあ、何で無理?」
―何で‥?
柚は弟だから。俺が兄だから。
2人が兄弟だから…
「…俺とその子は、絶対に結ばれてはいけない…永遠に結ばれることは出来ないんだ」
「結ばれてはいけない?」
「ああ」
「そっか……けど、俺は絶対なんてないと思うぜ?」
油絵の具でキャンパスを鮮やかに染めてゆく要はこちらを見ずに筆を動かしながら何事もなかったように言う。
「必ず1%は結ばれる可能性があるかもしれないし」
「………」
―1%か‥。
「ああ。‥考えてみる」
「おお!考えてみれ!そして勇気を持て!(笑)」
「そうだな。…もう、俺帰るわ」
「残んないのか?」
「今日は止めとく」
柚がもう家に帰って来てるころだ。
スケッチブックをカバンに突っ込み、部屋の入り口までサクサク歩く。
「じゃあな」
「おう。あっ、明日は柿口教授がくるらしいから少し早く来た方がいい」
「わかった」
ノブに手をかけスピーディーに開け閉めをして油絵科の部屋を後にした。
帰る途中も門を通るまで、いろんな人に声をかけられたが軽く挨拶をして足を早めた。
頭の中は帰ることしかなかった。
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