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…暖かい彼の右手が前髪に触れ、指筋が額に触れる体温で目覚めた。
「おはよ。柚」
「月兄……おはよう」
目の前の彼の笑顔はたおやかで、ある意味ため息をつきたくなった。艶めいた黒髪はサラサラ、そして細身なのに何故か筋肉がついてる体は不思議だ。
息子は母親に似ると聞いたことがあるが、兄は母親の美貌をも持ち、それでいて+α、男らしさを感じさせる雰囲気を兼ね備えている。
そして、容姿だけではなく芸術の才能にも恵まれ、おまけに面倒見が良いときた。間違いなく部類的に兄はモテるであろう。
昔から父親に似て女顔、そして頼りなくドジな性格の柚にとって、香月はうらやましくもあり、自慢でもある。
「柚。明日暇??」
「えっ?明日??‥んーと、明日は土曜日だから学校休みだし暇だよ」
「そっか。良かった」
「どうしたの?」
「いや、友達が家に来たいって言ってて‥柚にも会いたいみたいでさ」
「友達?」
「ああ、同じ大学の友達なんだが…」
********
「こんにちはー!そんでもってお邪魔しまーす!」
「要、テンション高すぎる。柚が引くだろ」
「大丈夫だよ。かっ、香月」
要を前に兄弟とばれないよう、必死に呼び捨てを試みる柚。
これは香月からのお願いだった。
―どうしても兄弟だってことを知られたくないんだ―
たった一言そういって、月兄はそのあと、俺と目を合わせてくれなかった…。
何故??一緒にされたくないとゆうことだろうか…違う意味なのか…
どっちにしろ少し泣きたくなった。
この間友達と出かけた時にたまたま目についた店で買った紅茶を入れようと柚は台所へ行った。
缶に入った茶葉達を手際良く花柄のポットに入れていく。そして湯気のたつお湯をポットへと流す。
ふんわりと香るアップルの香り。
臭すぎないおとなしめの香りが考えすぎな頭を落ち着かせる。
考えてもしょうがない‥か。
一瞬目を閉じて深呼吸をすると、ティーカップに紅茶を注ぎ、おぼんに乗せた。
不意に茶菓子が乗ってないことに気づき、冷蔵庫の隣にある戸棚から、チョコが散りばめられているクッキーを出した。
アップルティーにあうのだろうか疑問だったが無いよりマシかと思った。
今は小さいことに頭を使いたくなかった。
ティーカップと揃いの柄をした皿にクッキーを並べ、おぼんに乗せた。
そして両手でおぼんを支え、台所を出た。
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