6 朝早く油絵科の部屋へいくと、誰もいなかった。 筆などを準備してキャンパスに向かう。 特に何も描くものがないから無心になって何か想像したものを描いた。 しばらくして、入り口のドアが開き、一人の老いた老人が杖をついて入って来た。 俺は、老人の顔も見ずにキャンパスに筆を殴りつける。 「お久しぶりですね。柿口教授」 「おお。その声は金澤君かいな」 「ええ。金澤君ですよ」 ゆっくりした口調だが、逆に話しやすい。 「どうでした?研究旅行は」 「ああ。普通じゃった」 …何が普通なんだ。 この人は、油絵科担当の柿口 八雲教授。 ぱっと見ただの杖をついた老いぼれじいさんだが、教授の描く油絵と論文は国宝級だ。 のほほんとしていても作り上げるものは魂がこもっている。 普段は研究のため旅行しているが定期的に帰ってきて指導してくれる。 もう、定年退職してもいい年なのに、よくやりますよ。人間国宝認定ものだよ。 「相変わらずですね。教授は」 「この年で変化を求められたら困るじゃろ」 「クスっ‥そりゃそうですね」 お互いの世間話のような話をしていると勢いよくドアが開いた。 「香月!おはよっ…て、柿口教授!?」 要‥朝から元気がよろしいこと。 「ふぉっふぉっふぉっ!やはり若いもんは元気がええのう」 「朝から騒がしくしてスイマセンでした」 「気にせん!気にせん!元気がいいからおぬしだけ罰則なしじゃ!!」 「…罰則?」 聞いてねーぞ。何だ罰則って? その後、数時間がたち、油絵科の生徒がのうのうと登校してきた。 「おはよー…って柿口教授?!」 「ふぉっふぉっふぉっ!遅いにも程があるわい。おぬしを含め、後から来た者全員罰則じゃ!」 「スイマセンっ!‥て、罰則?」 「終わるまで昼抜きのデッサン100枚じゃ」 「ひゃっ100!?むっ無理っス!!1枚にどんくらい時間かかると思ってんスか!」 「ふぉっふぉっふぉっふぉっ!終わるまで帰れんぞ」 ―鬼だ。老人の背後に阿修羅が見える… 柿口 八雲。60歳。 年とってもスパルタは健在です★ [*前へ][次へ#] [戻る] |