[通常モード] [URL送信]
ギルド『アドリビトム』


「やあ、面白いものを見させて頂きました」


 貴方でしたか───!


戻った先には青い軍服を着たブロンドヘアーの眼鏡大佐が微笑を浮かべて立っていた。


「あなたたちそんな関係だったんですねぇ」

「いやいや違いますジェイドさん……」


まあ抱擁していたのは事実だが、決して『そんな関係』ではない。

何せ出会ってまだ二日目だ。


「まあ若いうちに色々経験するのはいい事です」


と親父臭い台詞を吐くジェイド。


「い…色々と言うと……?」

「おや、わかりませんか?」


いや、別に知らないわけではない。

ただ何を指しているのかジェイドの意図を聞きたいわけで。



「それはもちろんアレですよ。
 [ピ━━━━]とか[ピ━━━━]とかですね……」


やっぱりか───!

まあ半分予想通りだったが。


それにしても何と言うか、すごい言い回しだな………

あまりにすごすぎて修正かかってるぜ。



「そうですねぇ、彼女は[ピ━━━━]そうですからまずは[ピ━━━━]から攻めていけば………」


おいおいおい!

何言い出すんですかジェイドさん!?



待て、ちゃんと修正かかってるよな!?

よし、かかってるな………ふぅ。


まったく、何てこと言うんすか……

綺麗な顔して意外とえげつないんだなこの人。


「なんて冗談はさておいて……」

(冗談に聞こえなかったが……)

「あなた、記憶喪失らしいですね。船長から聞きました」

「ああ、そうだな」

「船長曰く、空から落ちてきた時のショックのせいだそうで」

「そうらしい」


ふむふむ、と顎に手を添えるジェイド。


「記憶を取り戻したいですか?」

「え?」


……確かに、記憶を取り戻して本来の俺の目的を知りたい という気持ちはある。

ただ───


「できるのか?」

「ええ、私の手にかかれば……」


ほう、それはすごいな。

ただ者じゃなさそうだとは思っていたが……まさかそんな事が出来るとは。


「ならばお願いしようかな」

「よろしいですか?」

と、何やら槍を取り出して柄を先端に構えるジェイド。

まさかとは思うが………


「……何をする気で?」

「ショック療法ですよ。もう一度強い衝撃を与えて───」


やっぱりな。

まあそれで直るんなら………


「あっ、保証はありませんよ?万が一の確率で直るかもしれません」


………ならば全力で遠慮しよう。


ジェイドのいやに爽やかな顔を見る限り、また冗談を言ってるようだ。

まったく、何なんだこのオッサンは……




…………………

……………

………

……








 1Fロビー───



「決めました。とりあえず私達はここでこのままかくまってもらう事にしましょう」


テロの標的はもう御免ですし、とジェイドは突然話を切り出した。


「勝手に決めないでください!船長はボクですよ?
 あなたの処遇はボクが決めます」


勝手に事を進めるジェイドに腹を立てたチャットが遮る。

まあ当然の反応である。


「おや、いいんですか?所属や国籍不明の船舶は立派な航行法違反になりますね。
 軍規に則り、制圧という展開も考えられますが……」


くいっと眼鏡を上げて言い放つジェイド。


「か、海賊はそんな脅しに屈しません!」


と言いつつチャットは冷や汗をかき目が泳いでいる。


つーか何だ、この船そんな違法船だったのか。

そんな船に俺は乗せられ働かされていたわけか……恐ろしい。

って軍の大佐に思いっきり『海賊』って言っちゃって大丈夫なのか?


「そこのお坊ちゃんや学生さんも海賊だったんですか?
 だったら容赦しませんが……」


ずずいっとその場にいたルカとキールに詰め寄るジェイド。


「………えぇぇ」

「ぼ、ぼくは関係ないからな!」


その気迫に臆して後退りする二人。

なんだよ情けない……仲間なんだからここは守ってやるのが普通だろ───


「無論、あなたも対象外ではありませんよジン」

「俺!? お、おおお俺こそ一番関係ないぞ!?知らないうちにこの船に落ちてきて勝手に働かされてるだけだからな!!」



───俺が一番情けないか………



「まあまあ、無所属船なのですから、我が国所属になればいいんですよ」


と急に肩の力を抜いた様子で提案するジェイド。

……な、なーんだ。本気じゃなかったのか…よかった。

この人冗談なのか本気なのかよくわからないぜ……


「バカな!軍船にされるなんてお断りです!」

と声を荒げるチャット。


なんだよせっかくジェイドが見逃してやると言ってるのにこの子は この船は違法船なんだよ違法船 わかる? 海賊なんて所詮は世界の敵なんだからね だからそんな夢とプライドなんて海の中に捨ててここは安泰な手段を選ぼうぜ船長。


「ならば……ギルドとしてならどうです?現状ではまともに依頼など来ないでしょう。
 我が国の正式な認可があるとすれば、状況はまるで違うと思いますが?」


ジェイドはチャットの反論も気にせず善策を述べる。


さっすがジェイドは大人だ ほらしっかり見習えよチャット ノープランで海賊になんてなろうとせずまずは安全な道筋をってまずお前は子どもだから海賊の船長として内面から成長しないといけないな だったら(以下略)


「……それは悪くないな」

「悪くないどころか、これって好都合なんじゃない?」


奥に引っ込んでいた二人が顔を出す。

確かに正式なギルドとなればまともな依頼が来るし、航行法違反にもならない。一石二鳥だ。


「…いいでしょう。
 ただし、あなたがたもボクの子分として船に乗ってもらいます。
 雑用や、ギルドの仕事を請け負ってもらうことになりますがとーぜん構いませんね?」

「ええ、もちろんですとも」


とりあえずこの船は違法船として処罰されなくて済んだわけか。

よかったよかった。まあジェイドにその気もないんだろうが。



「さてと、それにはまずギルドの名前を決めないといけませんね」

名前?

ああ、そうか。 何にするんだろ?


と、ここで船長のチャットが手を挙げる。


「はい!『海賊チャットと愉快な仲間たち』がいいでしょう!」

「…………」


おいおい……

正式なギルドが『海賊』って名乗っちゃダメだろ。

それになんだよ『愉快な仲間たち』って……


コホン、とジェイドが咳払いする。


「ふむ、『アドリビトム』というのはどうでしょう?」

「『アドリビトム』……か」

「どういう意味だ?」

俺はキールに聞いた。


「古代神官語で「自由」という意味だ」


ほー、さすが学生。よくご存知で。

……で、古代神官語って何すか?


「僕たちにピッタリかもしれないね」

「結構ですね!」


周りも賛成のようだ。

もちろん俺も賛成である。愉快な仲間たちよりよっぽどマシである。


「さあ、これから忙しくなりますよ。たくさん依頼が来るのを待ちましょう!」


活き活きと船長室に戻るチャット。



こうしてギルド『アドリビトム』が始動するのであった───



【光り輝く物語】
第一章 〜世界樹の青年〜


   第二章に続く───




Back]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!