世界樹のおはなし
翌朝───
「……て………だよ……い………」
「う〜ん……ムニャムニャ……」
モゴモゴと口ごもり寝返りをうつ。
「………ってば……ジン………」
「ん〜……もう食べられない……」
「……きて、もう朝だよ」
「むにゃ……だがもう一杯……」
「ジン、朝だよ。そろそろ起きて」
「うにゅ……さあ今からデザートタイムだ……」
むにゅー
「うぅ……うあ?」
誰かにほっぺたをつままれて目が覚める。
「もうジンったら、いつまで寝てるの?」
「うぁー、かうぉんうぉ……?」
『あー、カノンノ?』と俺はほっぺたをつまみ上げてるカノンノを見て言うが、上手くしゃべれない。
「ジンってば寝ぼすけさんだね」
「うぁー、おあおうかうぉんうぉ」
やぁ、おはようカノンノ。
「チャットが『いつまで寝てるんですかあの人は!』って怒ってたよ?」
「うぁっふぇ、きうぉうあんうぁうぃいっぷぁいふぁたらかふぁれたかうぁふぉうがうぁいうぁん」
だって、昨日あんなに働かされたからしょうがないじゃん。
「もう、とにかく起きてってば」
「………うー。」
………ぐー。
「あっ!こら、寝たらダメだってば!」
「うぇういっふ。うぉうひょいうぇかひてくうぁふぁい」
眠いっす。もうちょい寝かしてください。
「もう〜……ジンったら……」
「うー、ふかー、ぷぃー」
ぐー、すかー、ぴー。
「だったら……えいえい!」
むにゅむにゅむにゅむにゅ
「うぼぁ〜〜……」
うぼぁ〜〜……
「ほら、いい加減起きてよ」
「……うぁかっふぁお」
……わかったよ。
漸く俺はむくりと体を起こす。
わからなかった人のために状況を説明すると、ぐーすか寝ている俺をカノンノがほっぺたを引っ張って起こしたというわけだ。
そしてなかなか起きない俺にカノンノは上下左右あらゆる方向に引っ張って、俺はようやく起き上がったのだ。
あーゆーおーけー?
………って、
「うぃふうぁえおえうぉふぉっふぇふかんうぇうんら?」
いつまで俺のほっぺ掴んでるだ?
「んー、なんていうかジンのほっぺた面白いなぁって」
「あうぉうぁ……」
あのな……
ほっぺた触ってて「気持ちいい」ならまだわかるが「面白い」ってどういうことだ?
まあでも……アレだ。
俺の頬を摘んでいるカノンノの手もぷにぷにしてて何というか……気持ちいい───
っていかんいかん。いい加減起きないと。
「ふんっ」
ブンと顔を振りカノンノの手を払う。正直もう少しむにゅむにゅしてほしかったgゲフンゲフン……
「朝ごはんもう出来てるからね」
「ああ、すぐ行く」
どうやら俺が食べるのが最後らしい。
よし、次からはもっと早く起きよう。
…………………
……………
………
……
…
…
機関室───
「うが〜ッ、ヒマッ!暇にも程があるってのよっ」
朝食を食べ終え機関室に入ると、イリアの唸り声が聞こえてきた。
暇?暇ですって?俺昨日依頼受けまくったんですけどねぇ^^
というか依頼サボっておいて暇はないと思いますが^^
「だよな。せっかくギルドを立ち上げたってのに大した依頼はやって来ないし」
いやそうは言いますがリッドさん。大した依頼じゃなくてもきちんとやらないと依頼主さん困っちゃいますよ^^
「せっかくこのバンエルティア号も受け継いだというのに、このままではご先祖の勇名が泣いてしまいかねません。
さっさと名を上げなければ……」
そうですよ船長。部下が依頼をきちんとこなさないのは船長であるあなたの責任なんですから^^
そんなんでは船長は務まりませんよ^^
……もういいや。なんか俺嫌味っぽい嫌な奴に見えてきた。
男なら小さなことにこだわらないことだなっ☆(キラン
「フン、本気で言ってるのか?」
と、鼻を鳴らすキール。
そうだ、コイツのがよっぽど嫌味っぽい嫌な奴だしな。…違うか。
「大体、こんな子どもばかりのギルドにまともな依頼なんて来るわけないだろ」
ごもっとも。子どもからの依頼とかも来るし、類は友を呼ぶだな。
「皆さんが子どもなのは皆さんの責任じゃありませんか!
まったく、子分が子どもだとキャプテンも苦労しますね」
いやいや船長、いくらなんでも子どもなのは俺らのせいって言われてもね。
それに何より───
「おまえが一番子どもじゃないか!」
そうですよキールさん!流石俺の思っていたことを見事に代弁してくれる!
実は気が合うかもしれんな。
「あら、ジンじゃない」
ふとイリアが俺に気付く。
「やあお前らおはよう」
先ほどからの会話は全て聞いていたが、面倒臭いので今しがた入ってきたかのように演ずる。
「あ!ジンさん!いつまで寝てたんですか!何時だと思ってるんですかまったく……」
振り返るなり俺を叱咤するチャット。
「いやぁ悪い悪い。あまりに寝心地がよかったからつい」
「え?……そうでしょう、そうでしょう!なんてったって私の船なのですから!」
適当にお世辞を述べて言い訳したが、それで有頂天になるチャット。
意外と扱いやすいかもしれんなこの子───
「さあ!ジンさん!今日もバリバリ働いてくださいね!
では早速この依頼に行ってもらいましょう!」
「えぇっ!?いきなりかよ……あ、そうだよ!俺ばかりじゃなくてこいつらにも───」
こいつらにもやらせるべきだろう!と俺は振り返るが、
「───あれ?」
誰も……いない……?
おかしい…おかしいぞ!?つい数秒前までイリアとリッドどキールがいたはずなのに!?
「何言ってるんですかジンさん、早く準備してください」
「え?あ、うん…あれー?」
しかも俺一人で行くんデスカ?
……もうやだこんなギルド(泣)
…………………
……………
………
……
…
…
甲板───
「う〜〜……」
ふらふらとよろめきながら甲板に出る。
ついさっきチャットに任務遂行の報告をしてきたところだ。
いくら俺が上級職だからって一人でウルフ10体は鬼畜すぎます……
「ん?」
ふと甲板の柵にもたれて本を読んでいるカノンノを見つける。
俺は読書に夢中になってるカノンノの方へ歩み寄る。
「ようカノンノ」
声をかけると ぴく、と反応する。
「あ、ジンだったんだ。
本に夢中になってたから気付かなかったよ」
「何読んでるんだ?」
俺はカノンノが読んでいる少し大きめの本の中を覗き込む。
見たところ絵本のように見えるが──
「これ?ディセンダーの絵本だよ」
──やはりか。
ディセンダー……昨日の話題にも出てきた世界樹の救世主か。
「どんなお話か知りたい?」
「そうだな……」
正直昨日キールがざらっと解説した話ではいまいちピンとこなかった。
世界樹から生まれた救世主が、どのように世界を救うのか。この本にはそういうことが描かれているのだろうか。ならば知りたい。
「じゃあ、読んであげるね」
読みかけていたページを最初まで戻し、カノンノの読み聞かせが始まる───
*
むかしむかしのグラニデのおはなし。
そのころ、世界には『世界樹』しかありませんでした。
多くの時を経て世界樹は、自然を生み、精霊を生み、動物を生み、そして人間を生み出しました。
その世界に生まれた人々は世界樹から授かるマナの恵みを受け幸せに暮らしていました。
しかし時が経つにつれ、人々からは穏やかさが消え、更なるマナの豊かさを求め戦いを始めるようになってしまいました。
その戦いは次々と新たな争いをも生み、やがて精霊たちも姿を消し、世界はどんどん乱れていきました。
世界樹は、このままではいけないと思い、争いの進む世界に一人の光の戦士──ディセンダーを生み出しました。
生まれたばかりのディセンダーは、世界のことから自分のことまで何もかも知りません。
しかし、不可能も恐れも知りません。ディセンダーは争いを治めるために勇敢に立ち向かっていきました。
時には悪しき心を打ち砕く剣士として───
時には人々を癒す僧侶として───
様々な形で世界を救い、戦いに溢れていた世界はやがて元の平和な世界に戻りました。
それと同時に、光の戦士・ディセンダーは世界樹へ還っていきました。
けれども、ディセンダーは世界樹の中からいつでもグラニデを見守っています。
世界の平和が乱れた時、再びこの世界に降り立つために───
*
「───おしまい」
「ほほう」
夢中になってカノンノの読み聞かせを聞いていた。律儀にも体操座りで。
その姿は幼稚園児と先生さながらだった。
「私、この話大好きなの。小さい頃からこの本を手放したことはなかったくらい」
「へぇ……」
たしかにこの絵本はいい話ではあるが、その年齢まで大事に読まれているのは、相当好きでなければ成長の途中で少なくともどこかで保管されているであろう。
よっぽどこの絵本──もとい、ディセンダーが好きなのであろう。
救世主か……現れるといいな───
だが、
「……今は俺に救世主が来て欲しいです」
「えっ?どういうこと?」
つい声に出てしまい、カノンノが訊いてきた。
せっかくなので半ば愚痴のつもりでカノンノにその理由を話す。
「実はな───」
※
「───というわけでさ……」
「そうだったんだ……」
補足しておくが、カノンノは他の奴らと違い ちゃぁんと依頼を請け負っている。
だからこの子には八つ当たりなどはしない。
「この後も俺、チャットに依頼をされてるんだ……
俺、このまま過労死するかモンスターにやられるかもしれない……うぅっ」
が、話してるうちに段々自分もブルーになりカノンノに泣き寝入りする。
「そ、そんな!大丈夫だよ!私も手伝ってあげるから、ね?」
「すまんのぅカノンノ……」
そしていつの間にかカノンノの膝元でべそをかく俺。
「気にしないで。ほら、それに泣かないで。
よしよし」
と、小さい子をあやすように俺の頭を撫でるカノンノ。
嗚呼、癒される……っ!!
………っておい俺、なんかキャラ壊れてないか?
いつまでもこうしていたいが、もちろんいつまでもこうしていられないので、エスカレートしないうちにカノンノから離れ立ち上がる。
「コホン……ごめん、俺チャットのところに戻るよ」
「うん。頑張ってね。困った時には力になるから」
「ありがとう。じゃな」
…………
くぅ〜、恥ずかしさがこみ上げてきた……
傍から見てたら俺バカみたいだったよな……何してんだよ俺……
次からは気をつけよう。
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