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「初めまして、誠のお母さんです。さささ、和哉くん、座って座って」

「………どうも」


リビングで待っていた母さんが息を弾ませて椅子を勧める。キラキラと輝く視線を受け、和哉くんは伏し目がちに返事をしていた。

年甲斐もなく息子の友人の訪問にはしゃぐ母さんと、高いテンションについていけない様子の和哉くんにハラハラと胸がざわつく。二人は水と油のようだった。


「和哉くんすごくイケメンじゃない!モデルさんみたい。誠に身長を少し分けてほしいくらいよ。ね、和哉くんは何か食べられないものとかある?洋菓子ばかり用意しちゃったからちょっと心配で……あっ飲み物は何がいいかしら。コーヒー?紅茶?」

「母さん、一度にたくさん聞きすぎ。和哉くんが困ってるじゃないか」


よく回る舌に呆れる僕の横でコーヒーと呟く声を拾った母さんは、嬉々としてカップに濃褐色の液体を注ぐ。
名前もよくわからない洋菓子がテーブルに所狭しと並んでいる。店で買ったのとお手製のものとが半分くらいの割合だろうか。見るだけで腹が膨れそうなその量を本当に消化できるのか、心配だった。


「誠は食が細くて作り甲斐がないのよ。和哉くん、よかったら思う存分、食べられるだけたくさん食べてね」

「はあ。それじゃあ……」


控えめに返事をした和哉くんは軽く手を合わせると、用意してあったトングに手を伸ばす。
そっけない返事ながらも近くに置かれた洋菓子をひょいひょいと自分の皿に盛っていく姿は、満更でもなさそうに見えた。


「それは私がつくったチーズケーキで、そっちのはお気に入りのケーキ屋さんで買ったマフィンなの。すっきりした甘さで美味しいでしょう?」

「ん、まあ」

「こっちはマドレーヌ。最近焼くのに凝ってて味の種類もいっぱいあるから、食べて食べて」

「うう……甘いものばっかりで胃もたれ起こしそうだ」


皿の山がみるみる減っていくのを和哉くんの正面で母さんがにやけながら見ている。聞いてもいないのにフォークに刺さったものから解説し始めるあたり、かなり上機嫌だ。
適当な相槌を打ちながら和哉くんはもくもくと菓子を口に運んでいる。

自分がつくったものを食べてもらうのが幸せな母さんと、どうやら甘味好きの和哉くんは
会話が噛み合わなくても問題ないようだ。


「たくさん食べてくれてすごく嬉しいわ。稔くんに負けず劣らずの食べっぷり、母さん大好きよ」

「……ミノル?誰だ」

「ああ、僕の幼馴染。隣に住んでるんだ。僕があんまり食べないから、母さんはミノルを呼んでよくうちでご飯食べさせててさ。ほんと人に料理を振る舞うのが好きなんだ……」

「へえ、幼馴染?どんな奴」


シュークリームを頬張りながら横目で聞かれる。和哉くんが僕のことに興味を示すなんて珍しい。口端についたカスタードを舌で舐めとりコーヒーを流し込むと、次の一口を咀嚼しながら目は答えを急かしていた。


「うーん僕とはまるで性格が違うとしか言えないかな」

「お前みたいな奴じゃねえんだ」

「僕みたいって?」

「地味で、ビクビクしてて、いつも一人でいて、なのにお節介な変わりモン」


からかうような口調で、鼻から笑われる。
数秒ほど見つめられたその瞳は優しくて、視線を外されてしまうのが、なんだか惜しいと思った。





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あきゅろす。
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