造花を砕け(クラピカ) コンクリートの地面、高さを競いあうように建つビル、風景と化してしまうような人の波。 今ここにある風景はそんなものとは遠くかけ離れた、静かで暖かなものだった。 ルクソ地方の春の訪れは遅い。それは外の世界に出てから知ったことだ。 しかしその分ゆっくりと流れてゆく春の風景は、この世で最も美しいものだと思っている。 「クラピカー!」 人が居なくなってもその姿を美しく保っている花畑の中に、彼女はいた。 「どうした?」 色とりどりの花が咲くその中に足を踏み入れれば、サヤは私の手を引き隣に座らせる。 「少し、眼を瞑っていてね」 「?ああ…」 少し心肺そうな顔をするサヤを不思議に思って眼を閉じると、右手に何かを巻き付ける感触。 「もういいよ」 そう言われて、目を開けると薬指にシロツメクサの指輪があった。 「本当は、冠にしたかったんだけど…作り方を忘れちゃって…」 でも、折角だから指輪を作ったの。 サヤの言葉を何処か遠くで聞きながら、私は指輪の嵌まった手を見つめた。 復讐の為の力を備えた手には不似合いだな、と心の何処かで思ったが、その指輪の花の花言葉を、不意に思い出した。 「ね、いつか緋の眼を全部集めたら、二人でここで暮らそうよ」 手近の花を弄りながら、サヤが言う。 確かにそれが叶ったらどんなに幸せだろう。 人は居なくなってしまったが、やはり私はこの故郷が好きだ。そんな場所で愛する人と生涯を共にするのはきっと、私が選べる選択肢の中で一番幸せなことだろう。 ゴン達も、もう私に復讐はしてほしくない、と…言っていた。 だから眼を全て集めたらここで静かに生きる道を選ぼうと、ついさっきまで考えていた。 しかし、 「それは、出来ない…」 同胞の弔いの為、具現化していなかった鎖が指輪のついた手に現れる。 「出来ないんだ……」 この幸福を受け止める術を、私は捨てたのだ。 「復讐」の花言葉を持つ指輪が私を苛む。 造花を砕け 夢は、偽り。 砕いて、沈む。 . [*前へ] |