[携帯モード] [URL送信]
意味なしサボタージュ


全開に開けた窓。
ジリジリと教室の温度を上げていく日射し。
廃品回収に持っていき忘れたような扇風機は、ガタガタと怪しげな音を立てて回っている。

嗚呼、なんでこんな日に限って冷房が故障なんだろう。汗で手にくっ付くプリントが、忌々しい。



『「あっつい……」』


重なった声に顔を上げると、自分と同じく机にへばっている悟空だった。


「まだ終わんねぇの?」

『あと半分…数学なんて掛け算割り算見取り算が出来ればいーのにさぁ…』

「んなこと言ってるから葵は補習常連なんだって」

『私は文系だから。数学さんとは離婚して、古典さんと再婚したんだ』

「葵って、数学さんとは結婚さえしてない気がするけど」

『……悟空だって、理系の癖に補習受けてるじゃん』

「んー?俺この単元は寝てたから。プリントはもう終わったぜ!」



ホラ!と悟空はプリントを掲げ、私の方に寄ってきた。


『写さしてっ!』
「ダメ」


もう少しの所で、悟空がプリントを隠したので伸ばした手は空を切った。


『…ケチ、器が小さいぞ』
「だって葵の為にならないだろ。じゃ、俺職員室に提出してくる」


そう言って、鞄を持って出ていった悟空は、僅か3分足らずで帰ってきた。



『どーした、カップラーメンでも置いてったか』


プリントを見つめたまま声をかけると、ドサッ!と紙の束を無造作に置く音がした。


「だーっ!なんで堂々と職員室に入ったんだ俺ー!」

『あー、古典のじーちゃんに捕まったのね』

そう言えば、私にとって愛しの彼は職員室入り口近くの机だったな。



「ついでに古典の補習やれって…なんで一回外に出て窓使わなかったんだろ、俺…」

『いや、それもどうかと思うけど…数学と古典の先生っていつも両端にいるよね』


「葵、プリント交換し…」
『じーちゃん先生、私の筆跡一発で分かるから無理』
「どんだけ仲いいんだよ」
『補習の帰りにお茶と茶菓子が出るくらいには』
「え!?何ソレ!ずりぃ!」
『日頃の行いの成果だもん』
「…馬鹿な子ほど可愛いってヤツ?」
『一体悟空の中での私のポジションはどうなってんだろう…』
「不良気味なおっさんタラシ」
『オイコラ』



そんな会話から小一時間が経過し、時刻は暑さのピークである午後2時。


「暑い〜腹減った〜プール行きて〜」
『叶わないから、ソレ…このプリントの山がどうにかならない限りはね。はぁ…』
「なぁ、葵は後どんくらい?」
『さっきから対して進んでないよ…悟空は?』
「俺も…つーか!もう無理!暑いし集中なんか出来ねーよ!」
『そうだねぇ』



すると悟空は急に立ち上がり、ちょっと悪そうな笑顔でこちらを向いた。
…私も今、あんな顔してんのかな。

そして発した言葉はピッタリ同じだった。


「『サボろう』」


軽い鞄を二人して持って、教室を飛び出した。









結局はまた、同じ事の繰り返しになるんだろうけど。
二人の脱走劇はとても楽しいものだから。


『あー、サボっちゃった』
「なぁ、取り敢えずメシ行こう!」
『…どんだけ笑顔なんだお前』
「いーじゃん別にー…ゲッ、古典のじいちゃんと目が合った!」
『先生ー!私は真面目にやってたけど孫君が私を拐いましたー!』
「えぇ!?」
『さぁ頑張って逃げろ、悟空』
「ちゃっかり後ろに乗ってるし!」
『サボりっつったら、自転車の荷台に乗るものでしょ』
「あー!もう!昼飯葵の奢りな!」
『えー』










[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!