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イレギュラーな休日


「きゃあああ!!」


ガン!ガン!ガン!ガガン!


目の前に広がるのは、襲い来るゾンビやらグロテスクな怪物。
聞こえるのは、高く響く合成的な女の声。


そして俺の隣には、それらに容赦なく銃弾の雨を浴びせる葵。
その顔は、暑さで常にダルそうないつもの表情と違い、殺気と情熱に溢れた、なんとも形容し難い表情になっていた。




…つっても、只のゲーセンにあるシューティングゲームなんだけどよ…

夏休み、補習を終わらせて初めての休日がこんなのって有りなんだろうか。




『ちっ、ヤられた…100円、100円…』

ふと見やると、血塗られた画面にコンテニューの文字がこれまたグロく表示されていた。
年齢制限必要なんじゃねーか?このゲーム…

『だぁぁ!札しかない!悟浄、君の出番だ!急いで両替!30秒で!』
「…へいへい」

渡された千円札を片手に両替機へと向かう。つーか、そんなにやり込むなら予め両替しとけって、いつも言ってんのに。
本日二回目の出動に、そんな事を考えながら周りを見回す。

平日でも夏休みだからか、鼻を垂らしたようなガキがそこら中に居た。
そしてそいつ等が葵に集まっているのも見えた。

「ったく、怖いんなら見るなっての」

やはりあのゲーム、最新機と言うだけあって怖さといい難易度といい、よく出来ているようで…
自分達がクリアすら儘ならなかったものを、女子高生(制服着たまんまだしな)がプレイして、かなりの腕前…というのはガキの好奇心を誘うには十分なものだったらしい。
ギャラリーは増える一方だ。

「別に、女らしさを求めちゃいねーがよ…」


帰りがけ、葵に捕まって掛けられた第一声は、
『私の得点を抜いた奴の名を、ゲーム機のランキングから引き摺り落とすから来て』

だった。

普通、女がゲーセンでやることなんてUFOキャッチャーでぬいぐるみ…位じゃねーのか?
いや、ファンシーなぬいぐるみをもった葵…それもまた違う気がするが。
グロテスクなシューティングゲームで高得点を出そうとする女子高生も違う気がする。



「ホラよ、後何面位だ?」
『うーん…この感じだと、後は中ボス何回かでクリアじゃない?…今日はこれクリアするまで帰らない』
「そーかい…つか、ギャラリー増えてんぞ」
『ん、さっきジュース貰った。「お姉ちゃん頑張って!」だって』

両替してきた100円玉を渡しながらそう告げれば、そんな返事が返ってきた。
葵の視線を辿れば、キラキラした目で此方を見る鼻垂れ小僧が。

「あの目はガキがヒーローか何かを見る目だぞ」
『違う。絶対私の方がその辺の全身タイツのヒーローよりカッコいい』
「あれは全身タイツなのか」
『さぁ?でも今日は勝つ』
「男前だな」
『お褒めに預かり光栄です。んじゃ、カッコよく決めようかな』
「おー、頑張れ」


素早く100円玉を入れて戦闘体勢に入る背中を見ながら、こんな休日も悪かないと思った。











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あきゅろす。
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