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夏特有の高揚感と


「ヒャッホウ!」
「あー、冷てー!!」
「おーい、誰か溺れてっぞー」
「死ぬなよー!野郎に人工呼吸なんて俺は嫌だ!」
「あ、でも葵がいるじゃん」
「馬鹿、人工呼吸云々の前に止め刺される!」
「見てろ!俺の華麗なるバタフライ!」




川ではしゃぐ、私を除く、総勢14名の野郎たち。美しい景観がむさ苦しさで台無しだ。

つーか、川でバタフライなんて泳ぐな。
みんな山の中の川だから、水が冷たくて気持ちよさそう。
いーな…全員くたばれ馬鹿共が。


「おーい、聞こえてる聞こえてる」
『聞こえるように言ったんだ馬鹿大将。溺れてしまえ、別の意味で天界に帰れ』
「酷い言われようですね大将」
『馬鹿元帥も心臓麻痺にでもなればいいんだチクショウ』

そう言いながら、私は石を川へぶん投げる。上手く跳ねるかな。

「いでっ!何すんだよ葵!」
『チッ』
「荒れてますねぇ」
「しかも全力で投げてたぞアイツ」
『うるさい!』

大体、天界ゲートが開かないのが悪いんだ。
いつもの様に下界に遠征に来たのはいいが、帰ろうとしたところでゲートがぶっ壊れたらしい。
普通の天界人は私の様に絶望するところだが、西方軍は全員が自他共に認める下界好きなので差ほど問題はなかった。

因みに私だって、下界の方が好きだ。けれど下界の今の季節は夏。
そしてなんだか知らないが、今日は尋常じゃない位暑い日で、「真夏日」らしい。

そういう訳で、隊員たちはパンツ一枚で川に入るという、なんとも男所帯らしい荒業に出たのである。


『パンツ一枚が有りなら、服来たまんま川に飛び込んだっていいじゃん』
「却下」
「足までならいいですけどね」
『…男女差別』
「あのなぁ…全身ずぶ濡れになったらどうなるか考えてみ?」
『涼しい』
「…その後は」
『暑いから服は乾く』
「「………はぁ」」

今度は溜め息で諭してきたよこの二人。何だろう、この間本で読んだ「プールカードを忘れてプールに入れない」という気持ちが良く分かった気がする。
ついでに、その本を読んだ時の私の感想も思い出した。


「あ!おいっ!」

ばっしゃーん。と、派手な水飛沫が上がった。














『暑い…』
「うっせ。我慢して着てろ」
『真夏にロングの軍服はないだろ大将』
「自分の軍服を水浸しにするからだ馬鹿」
『別にアンダー着てるからこんなの要らない。返す』
「葵、着てて下さいね?」
『助けてー!上司が苛めるー!』


大人しく言うことを聞くという選択肢に納得いかなかった私は、自分の気持ちに正直に行動してみたのに…
突然の飛び入りを、仲間たちは快く受け入れてが、捲簾と天蓬を見て一変。
私は直ぐに捕まって岸で説教をうけるはめになった。
仲間だと思ってた奴等はみな聞こえないふりだ。

「あきらめろ」
『みんな溺れろ裏切り者め』
「そこまでして泳ぎたかったんですか?」
『…いや別に』
「なんじゃそりゃ」
『…みんなと同じことしたかった』

流石にパンツ一枚は無理だけど。

それだけ言って、捲簾の上着を日除けにしてからいじけモードに入ると、二人は苦笑いを浮かべて私の両脇に座った。暑苦しい…



「…あー、じゃああれだ」
「次回からは水泳セット持参で出動しますか」
「水着だけじゃなくてか?」
「バナナボートなんてどうでしょう」
「それは海だろ」
「いっそ海水浴にしましょうか」
「スイカとビーチボール持ってな」

だから、機嫌直せって。


『…おっきい浮き輪が欲しい』
「なんだお前、泳げないのか?」
『捲簾が浮き輪膨らませるのに疲れればいいと思って』
「泳ぐ前にバテるタイプですもんね。世話疲れで」
「なに自分だけ楽しようとしてんだ天蓬」
『疲れたら砂風呂で労ってあげるよ』
「嘘つけ!埋める気だろ」
「顔だけ日焼けして面白くなりそうですね」


「大将!元帥!今度は海ですか!」
「海だったら下界の海水浴場行きましょうよ!むさ苦しいのはもう嫌だ!」
「「「お前に言われたくねぇよ」」」
「あ、じゃあ食材持ってってバーベキューやろうぜ!」

うぉぉ!賛成ー!


呼んでもいないのに勝手に集まってきた仲間は海の話題で大いに盛り上がっていた。

『なんか皆若いよね、子どもみたいで』
「ガキ大将が率いてるせいじゃないですか?」
「馬鹿言え、保育士の間違いだろ」
「こんなゴツい園児は嫌ですね」
『可愛い子どもに失礼だから男子校でいいよもう』



「「聞こえてんだよ葵ー!」」
「お前なんかバーベキューの時ひたすら肉焼きの係にしてやるー!」
『…夏だねぇ』



バシャバシャと音をたてる水飛沫がとても綺麗だった。










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