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無意義で有意義な時間(捲簾)



「お前、よその隊員になんか言ったのか?」
『え?なんで?』
「…エリート君だったのに、急に変人になったんだと」
『…それは元々本人が変人だったんだよ。きっと』
「おい、何で目を反らす」



春先のこの季節は嫌いだ。
そりゃあ、天界にハッキリした季節なんて無いんだけど。下界が暖かくなる頃は変な奴が多い。


『…最初に声を掛けられて』
「あ、お前からふっかけたんじゃねーのな」
『私、立ち話は嫌い』
「だよなあ?じゃ、なんでまた?」
『なんか階級が上っぽかったから、下手に出てやっただけ』


因みに、今会話してるこの部屋は、捲簾の部屋だ。今日は午後から二人揃って休暇を貰ったので、捲簾で暇を潰そうと遊びに来た。


「で、何言われたんだ?」
『自分の有能さについてと、存在意義』
「…ごくろーさん」
『そう思うなら酒か珈琲の一杯』
「酒は止めとけ。今お前に呑ませると危険な気がする」
『よく分かったね』
「自覚あるのはいいが、目がヤバい」
『…という所から、私は何も悪い事してないと察してくれると嬉しいな』
「いや、その様子じゃ長い無駄話の後に強烈な一言とみた」
『全然強烈じゃないよ。ただ、お前に存在意義なんかねぇだろ…って』
「見下すような冷たい視線付きか…」
『だって、しつこかったんだもん』
「しっかし、どうしてそう極論に走るかな、お前って」
『私の時間を無駄に食い潰されてる気分だったから?』
「ま、この季節は変なのが多いからな…俺からテキトーに言っとくわ」
『ほっとけばいいのに…奴に限らず、人間なんてそんなもんだよ』


珈琲を入れながら(今日はインスタントじゃない方で)話を聞く捲簾に、私はソファーに寝転びながらそう言った。


人間なんて、所詮は自己満足を追求していく生き物だ。っていうのが私の持論だし。


『存在意義なんて大層なもの、持てないでしょ』

聞こえない位の声で呟くと、目の前のテーブルに入れたての珈琲が置かれた。

「まーな。例えば俺が大将辞めたところで、またそこに新しい人間が就くのと一緒だろ」

何処か遠くを見るような目をして言う捲簾に言い表せない焦りを感じた。

『…ちょっと待って。どうしてそうなるの』

珈琲を飲む手を止めて、向かいに座る捲簾を見やると、捲簾も私を見ていた。

「いや、何となく」
『…それは違うでしょ。少なくとも、捲簾が大将辞めたら私も辞める。天蓬が辞めてもそうするけど』
「ぶっ、はは!」
『な、何…』

急に腹を抱えて笑い出す捲簾に訳が分からず硬直していると、突然頭を撫でられた…っていうか、掻き回された。

「やっぱお前って、俺たちの事がチョー好きなんだな」
『…なんか語弊がある気がするんですけど』
「だって、からかっただけなのに必死に言うんだもんよ…くくっ!」
『…このアホ大将っ!』

さっきまでのシリアスな気分はぶっ飛んで、いつの間にか私は捲簾の後ろに回って首を絞めていた。

「ちょっ、それは止めろ!」
『武器は…くそ、忘れた!』
「やーめーろって!」

不意に首に回していた腕を掴まれて身体ごと彼の膝の上に引っ張られた。
何故か仰向けで。

「悪かったって」
『反省の色がない』
「だってお前、その変人と話したせいか、訳の分からん空気背負ってんだもんよ」
『…それは、ごめん』
「サヤが、謝るってなんか不気味だな」
『あー、ここからなら顎とか急所狙えそー』
「…それは洒落にならなそうだから止めてくれ。マジで」
『今日、夕飯奢ってね』
「しょーがねえな」


そして私達はお互いに微笑みあった。








(どんなに無意義な話でも、貴方といると有意義になるんだろうな。)








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