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たとえその手が血に染まろうと、(三蔵)


足元に血だまりが出来ていた。

路地裏でいつもの団体客に襲撃された私は、持っていた短刀でそれを迎撃した。
だから、道を真っ赤に染め上げたその色は、全て返り血だ。


『っ…』

あの4人と行動を共にするようになってから、1人で武器を持つことがどうにも不安になってしまった。

気が付くと、短刀を持つ手が震えていた。
腕に付いた返り血が固まってきて、色も真紅から黒味を帯びた赤黄色へと変わってゆき、醜かった。
そしてそれを見た瞬間、自分の汚い部分が一気に具現化された気がして、吐き気がした。


今までの私は、自分を守る為に生きてきた。

守る為に多くのものを奪ってきた。

要するに、守る為には奪わなくてはならないのだ。
お話の中のような綺麗事は、現実では成立しないことも、幼少の頃からどこかで理解していた。
だから、奪うことに戸惑いはなかった。

それなのに、あの4人と行動するようになってからは1人で「何か」を奪う事が恐ろしくなった。
あの4人は私と違って汚い部分なんて、ないように感じるのだ。
否、何が起こっても揺るがない何かを、あの4人は持っている。
だから奪うことに対して、たとえ血に塗れようとも私と違う、美しささえ思わせる。

そんなのを見ているから、揺らがないものを持たない私にとって、1人で奪うことは全てが間違っている、歪んだ行動のように思えてしまう。


はっきり言って、怖い。

今までの自分を否定したようで、されそうで…



ついにしゃがみ込んでしまった私は、視界がぼやけていくのを感じた。


「何泣いてやがる」
『…さんぞ』

ぼやけた視界に現れた金色は、三蔵だった。

『泣いてないよ』
「だったらそのシケた面、どうにかして立ちやがれ」
『…うん』


三蔵は何も聞かない。
仮にも、大量の血だまりの中で返り血を浴びた状態の私だけど。
けれど、私には薄情に近いこの男のこういう所が好きだった。


『…!三蔵!』
「グァ…!」

僅かに息のあった敵の1人が、三蔵を後ろから襲った…が、三蔵は気付いていたのか、振り向き様に一発、撃ち放った。

「…やるならちゃんとやりやがれ」
『…………』

返り血をその手に浴びて、彼は言った。
迷いのないその姿は、私にとって、とても美しく見えた。

『困っちゃうよね』
「知るか、何言ってんだ」
『三蔵は、キレイなんだもん』
「撃たれたいか」

そういうことじゃなくて、と前置きして私は続けた。

『殺してんのは同じなのに、三蔵たちは私と違ってキレイ』
「めんどくせぇ事抜かしやがる…サヤ、一つ教えてやるよ」


そこで三蔵は、私を立ち上がらせ、言った。

「殺すことじゃねぇ、生き抜くことが一番難しいんだ」
『そっか…』

じゃあ私、結構頑張ってる方かな?


独り言のように呟くと、三蔵は
「そうだな」と、珍しく肯定してくれた。






たとえその手が血に染まろうと貴方は美しいのでしょう。
(生き抜くことが一番美しいことだから)






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