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眼を閉じれば、



俺は何の為に生まれたのだろう?

己の中で幾数も繰り返した問いを、再び繰り返す。そしてその答えも。

破壊と殺戮。

自分はただそれだけの為に作られたのだ。
分かっていた。あの時、皆に見捨てられた時から。
信じていた師に必要ないのだと、そう言われた時から。

そして、所詮壊す為に生まれたものが変わろうと足掻いても、結局変われなかった。
だって自分は壊すことが存在根元。
壊す目的のものが、どう変わったってプラスにはならないのだ。
そこに居るだけで悪影響、人畜有害。
そんなもの、早く死んでしまえと思った。

だからこの世界の為、死んで下さいと言われた時嬉しかった。
確かに“死”は怖い。
未知なことに対する恐怖はどうしようと拭えなかった。
だけど、それでも壊すことしか出来なかった自分が死ぬことで、誰かを救える。
救える、そんな気持ちを持つことだっておこがましいと気付いてるさ。
でも、その事実が嬉しかった (本当は悲しくて寂しかった)



そして今、俺は俺を殺したいほど憎んでいる。


死に損ねた。
その事実に愕然とした。
そして、生きてることで安心している自分に自己嫌悪が沸き上がる。


何故俺は生きている?


オリジナルの彼の居場所を奪い。
何千、何万という民を町と一緒に消滅させ。
同族である一万のレプリカの命を喰らうように潰したというのに。

吐き気がした。そのあまりにも多すぎる犠牲に立ち、あまつさえ生きていることに安堵を覚えたことに。

自分は人形、否、殺戮人形。
誰かの幸せを踏み潰し、誰かの未来を踏みにじり、そしてまた誰かを不幸にする。

そんなもの、生きてる価値はないだろう?





目覚めた時、白い天井が見えた。
背中に柔らかな毛布の感触を覚えて確信した。
まだ自分は生きているのだと。
茫とした気持ちは嫌がおうにも覚醒を促され、拡散する。
ぽつりと一言言葉が漏れた。


「何で…死ねなかったんだ」


それは、心の底からの本音。揺るぎようがない心情。
体を起こした瞬間、頬に衝撃を感じそのまま俺はベッドへと後戻りした。
ぼんやりと見ると、ガイが居た(自分が起きるまで、隣に居てくれたのだろうか?)
必死そうに、凄い形相で何かを言っている。
だけど、まだ覚醒したばかりの俺には言葉は意味を成さず。ただの音として俺の耳を通り過ぎるだけだ。
ガイの隣でティアがガイを宥めようとしている。その目は此方を向いていて、やっぱり怒った色をしていた。
他の皆も、怒ったような、泣き出しそうなそんな顔だ(そんな顔をさせたい訳じゃない)


嗚呼…彼等は自分が生きていたことに怒っているのだろうか? 違うと誰か否定して


だって自分は出来損ないのうえ、殺戮人形なのだから。
憤激されて当たり前、なのだ。

それに……


「…レプリカ達の命を喰らってまで…」


俺に生きる価値がない。

ポツリと呟いた言葉に、周りにいた人達が反応した気がした。
ルーク…、そう聞こえた。
目を向けると、それぞれ顔を悲しそうに歪めている。
ほら、やっぱり俺は優しい人達を悲しませてしまうんだ。
やがて、ガイが俺の頬を撫でごめんと呟いた。
悲愴が滲んでいて、その声色に泣きそうになった。
でも何で謝っているのか分からない。


「?何でガイが謝るんだ?悪いのは全部俺なのに…」
「ルーク…」

思ったことを質問すると、何故か痛々しそうに視線を向けられた。
ガイが何かを言う前に、別の声が遮る。

「ルーク、あなたは疲れているのでしょう。今日はゆっくり休みなさい」


ジェイドだった。
眼鏡を押さえてるため表情は分からなかったが、おそらく苦々しい表情をしているのだろう。


「分かった…」


目を伏せると途端訪れる眠気。
すぐに意識は闇へと呑み込まれた(そして今日も夢を見るのだろう)

嗚呼…昏い淵へと堕ちていく。









自分の存在が希薄になってるのを感じた。一刻と消滅へと向かっているのだろう。
死は怖い。消滅は嫌だ。
どうせ壊れる命なのだから___どうか、どうかこの哀れなレプリカを誰か優しく壊して下さい。




ゆ る さ な い




下を見ると瘴気の海。足を掴むのは誰の腕?
そして、今日は数を増したその腕で瘴気の泥雲へと引きずり込まれる。
声は出ない。叫べない。

そして最後に思ったことは。


(この世で恐らく一番の、人間と同胞殺しが楽に死ねる訳ない、か…)


享受した様に目を閉じる。それは、深淵へと堕ちていくための覚悟。

そして、朱は暗く澱む泥に飲み込まれ見えなくなった。







眼を閉じれば、
(其処は、己の罪と懺悔の澱海)





<08.12.20>
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