屋上へ続く階段 天気がとてもいい。 雲一つない真っ青な吸い込まれそうな青空。 いくら制服が夏服になったとはいえまだ半袖では風が少し肌寒い。 休み時間が終わるチャイムが鳴り、生徒達は走って教室に入る。 ただ一人を除いて。 綺麗な流れる水を連想させる髪をなびかせ、イオンは一人、廊下を歩いていた。 授業に遅れるからと急ぐわけでもない。いくつかの教室の前を素通りし、校舎の一番端にある階段を上っていく。目的地は屋上。 「授業サボっちゃダメだよー。」 後階段を数段上れば屋上へと続く扉を開けることが出来たのに。 その扉の前にはヘラヘラと笑う化学教師が座っていた。 「ファイ先生こそ。」 「オレはこの時間授業ないからー。」 授業をサボっていることについて怒るでもなく、彼はただ笑っているだけ。 「ちょうど君と話がしたくて。」 先ほどまでの間延びした口調ではなく、少し目を伏せ微笑みながらファイは自分が腰掛けている階段を軽く叩いた。 隣に座れということなのだろう、一人になるために授業をサボり屋上へ行こうとしたのだが担任に見つかってはもうそれは叶わないことだと諦め、イオンは階段を上りファイの隣に腰掛けた。 「今の時間、体育でしょー。黒ぽん先生に怒られるよー。」 「ファイ先生はワタシの担任なのに注意しないんですか?」 「んー。まぁ、怒るだけじゃ解決しないこともあるでしょー。君が転校してきて2週間、だんだんサボる授業の規則性に気づいたしねー。」 ファイの言葉にイオンは何も答えなかった。 イオンはちょうど2週間前にこの堀鍔学園に転入してきた。今は学園の寮に住んでいる。 先ほどのファイの言葉から今回、授業をサボりファイに会ったこのは偶然ではないようだ。 彼は気づいた。イオンが出ない授業の内容に。体育、化学の実験、家庭科の調理実習。つまり誰かと関わりながら受ける授業だ。 「出席日数は考えてるんで大丈夫です。」 「そーじゃなくてー。オレの化学の実験だって出てくれないしー。」 「あまり人と関わりたくないんです。」 イオンは少し眉を下げ、寂しげな表情を浮かべたがすぐに立ち上がった。 「そうゆうわけなんで失礼します。」 これ以上ファイと話をする気など到底なかった。 階段を数段おり、屋上以外のどこに行こうかと考えた。 「ねー。一人って楽しいのー?」 後ろからまた間延びした声が聞こえる。 「楽なだけです。」 イオンは振り返り答えた。 そう、楽なだけだ。 楽しいことなど一つもない。 だけど、誰かと仲良くなって、その人に依存してしまわないか。失ってしまうのではないか。と考えると怖くなり、人との関わりを拒んでしまう。 「じゃあ、オレが堀鐔学園生活を楽しくさせてあげるよー。」 「はい?」 金髪で間延びした喋り方の担任は満面の笑みでそう言った。 屋上へ続く階段. ワタシを変えた出会い [次へ#] |