金魚草が動揺する時
止める権利が無いと言いながら
私がホグワーツに来てから、少し時が流れた頃。
いつものように、セブルスと共に夕食をとるために大広間へと向かっていた。
セブルスとは汽車内のこともあり、すぐに打ち解けた。中々に話も合う。
大抵は本のことだったりするが。
あぁ、後、リリー・エバンズというグリフィンドール生のこともよく聞く。
彼がエバンズに好意をもっていることは、手に取るように分かった。
いつも無表情に、淡々と抑揚のない声音で喋っている彼が、少し嬉しそうに喋っているのだ。
だがその差は本当に微妙なものであり、気がつかない人が大抵だと思うが。
それにグリフィンドール生のことをあまりよく思っていないふうである彼が、自分からグリフィンドール生のことを話すのがその証拠だ。
そして現在も、一つ二つ、周りから見ればあまり楽しそうではないような話題を話しながら、大広間を目指していた。
そしてその話題が、いつも誤字だらけの雑誌の話になった頃、後ろから名前を呼ばれた。
その声は、全く聞いたことのない声ではなく何回か聞いたことがある声だ。
彼はたしか、三年生だった気がする。
とても有名な人なはずだ。
そう思いながら、私は後ろを振り返った。それと同時に、セブルスも後ろを振り返る。
「……確かあなたは…」
「ルシウス・マルフォイだ。フィオル・ミュステリアとセブルス・スネイプ、で合ってるか?」
「…合ってますけど」
銀色の長髪を靡かせながら、彼は私達に話しかけた。
あの有名な、マルフォイ家の一人だ。
できれば会いたくない、と思っていたことは内緒にしておこう。
どうせ、マルフォイ家とミュステリア家の親交を……、などと言われるに決まっているのだ。
「君達の噂は常々聞いているよ。特にセブルス・スネイプは闇の魔術を上級生より知っているとか。
あぁ、そうだ。セブルス、フィオルと読んでもいいかな」
「はい……」
「………」
なにが言いたいのか、よく分からなかった。
彼はマルフォイ家なはずで、きっとセブルスが半純血だということも知っているはず。
だが彼は、セブルスのことを高く評価しているようであった。
それは別段悪いことでもないのだが、兎に角何が言いたいのか分からないのだ。
用件を催促するか、このまま話しに流されるか。
私は勿論、前者を選んだ。
「それで、ルシウス先輩。私達に、なにか用があるのではないですか?」
「あぁ、そうそう。君達これから夕食を食べるんだよね」
「そうですけど」
「それだったら、俺達と一緒に食べないか?」
俺達。それは俗に言う、純血主義者のグループではないだろうか。
しかもただの純血主義者のグループではなく、マルフォイとブラックの。
私は勿論お断りだ。
別に純血者が嫌いなわけではない。ただ、私が日和見主義者なだけだ。
もしこの誘いが一年生のときではなく、もっと上級生になったときならば断らないかもしれない。
けれど今は一年生なのだ。まだ、この学校のこともよく知らない内にほいほいとついて行ったら、後々面倒なことになりそうだ。
それに、一緒に食べる相手は自分で見つけたい。
別に一人で食事くらいとってもいい。というか、この頃は大広間にいくのが面倒になってきた。
セブルスがいるため大広間で食しているが、いなかったら寮で食べてもいいと思っている。それが叶うのならば。
断ろうとして隣のセブルスをふと見たとき、彼もこちらを見ていたようで目が合った。
セブルスの表情は、どちらでもいいという雰囲気を装っているようだが、少し行きたそうにも見える。
彼はどちらかというと、純血主義者よりだ。
まだ一年生なので分からないが、将来は列記とした純血主義者になるのではないだろうか。
そんなセブルスが、マルフォイやブラックのいるグループに行きたがるのは当然のことだ
勿論、私にはそれを止める権利などは持ち合わせていないし、邪魔をする権利もないだろう。
それならば、彼だけでも行かせてあげるべきだ。
「……今回、私はお断りさせていただきます。なので……」
私は一歩後ろに下がって、セブルスの後ろへと移動する。そして、その背中を軽く押した。
「!?」
「彼だけ、連れて行って下さい」
「なにを……」
二人はとても、怪訝な顔つきでこちらを見てくる。
なにか、言いくるめられるような言葉を捜す。
「……今回は、お断りさせていただきます。まだ、入学して間もないですし。
もう少し、学年が上がった頃に誘って下さい。でも彼は優秀ですし、そんな必要はないでしょう」
「君の食事相手を借りてもよろしいのかな」
「はい、もちろん。私は寮で、食事をとらせていただきます」
そう言って私は寮に戻ろうと、彼らに背を向ける。
ちらりと盗み見たセブルスの表情は、少し後ろめたそうだった。
そんなふうに思う必要なんて、全くないというのに。彼の人生の邪魔をする気はないのだから。
……もう今日は、夕食を食べないでおこうかな。
―止める権利が無いと言いながら―
(本当は少し寂しいような気がする)