金魚草が動揺する時
淡い期待を花弁に乗せて
スリザリン!!
そのたった一言で、これから七年間の運命が決まったも同然だった。
私がスリザリンに決まった時、スリザリンの人達は一際大きな歓声を上げた。
大方、私が純血で尚且つ伝説の家柄だからだろう。
伝説というのは大袈裟かもしれないが、ブラック家、マルフォイ家と同じような権力を持っているのは本当だ。
なぜ伝説なのかというと、存在があやふやで表立った行動をしたりしないので、伝説のように本当にあるのか分からないからだ。
しかもこの頃は、後継者不足で跡絶えたとまで言われていた。だがそれも最近までのことだが。
そんな家自体は私にとって、どうでもいいことだった。別に好きでも嫌いでもない。
今は、リドルの予想通りスリザリンになったことを考えるべきだ。
スリザリンになったことは、私にとって悪いことではないと思う。
汽車で一緒だった彼――セブルス・スネイプも同じ寮だったのだ。
リドルもきっと、スリザリンのことはよく知っているはずだから、色々と教えてくれるだろう。
そういえば、ミュステリアである私はスリザリンに入ったのだが、ブラック家の一人が組分け帽子にグリフィンドールと言われていた。
本人とグリフィンドールは嬉しそうだったが、スリザリンは唖然としていた。
誰かが、他はスリザリンなのに、と呟いていた。
他というのは、その選ばれた人の兄弟だろう。
その人の名前は忘れた。というか、最初からあまり意識していなかった。
「ここか……。というか、私って一人部屋なんだ…。そっちの方が楽だけど」
五年生の監督生に案内されたスリザリンの寮。その奥の女子寮。
そしてその内の私に宛がわれた部屋の扉の先には、中々広い部屋に一人分の家具が置いてある。
荷物ももうすでに置いてあった。
天蓋付きベッドに飛び込んで、少し思案してからリドルに話し掛けた。
「ねぇ、リドル。もしかしてさ、気をつかわせたんじゃない?私達」
「ダンブルドアが?」
今度は頭の中にではく、部屋にあるソファーの方から聞こえてきた。
…いつのまにチョーカーから出たんだろう。
「そうそう。こうやって、リドルがいつでも実体化できるよーに」
「気だったら、いくらでも使わせておけばいいさ」
「まぁ確かに、そのお陰で私も楽させていただいておりますけど」
私はベッドのシーツを指で弄びながらそう返した。
ダンブルドアにはリドルのことを話してある。話しておいた方が後々楽だろうと思ってのことだ。
更に言うと、ダンブルドアと数年前まで一緒に暮らしていた私の祖母は知り合いらしい。
そんなことは置いといて、私は今からなにをすればいいんだろうか。さっぱり分からない。
このまま時間が過ぎていくのを待つだけなのだろうか。
そんなのは退屈なだけでくだらない。
「荷物の整理」
そう思っていると、まるで心を読んだかのようにリドルが次にすることを言った。
確かに荷物はトランクに入れっぱなしだ。全く手をつけていない。
「え……。読心術?」
「大袈裟な……。ただ次にすることを言っただけ。それと、暇だって思ってることが顔に書いてあるよ?」
「一人だからいいんですー」
「僕もいるんだけど」
「リドルは例外」
そう言ってから、私はベッドを降りてトランクの方へと足を運ぶ。
さほど荷物は持ってきていない。衣類と日用品。後は、本当にいる物だけ。
それに持ってくるほど、私は物を持っていない。
そんな少ない荷物を整理しながら、ふと思ったことを口にする。
「…私って、ホグワーツに来た意味ある?」
「どういうこと?」
「だって、魔法とかそれに関する知識は叩きこまれるように教えられてるし、
詳しいことも無言呪文でさえもリドルに教わったのに、今更学ぶことなんてあるのかって」
「日常生活、集団生活を学ぶ」
「それ、本気で言ってる?」
「全く。そんなことは、マグルの学校でやることだ」
「でしょ?」
きっと、一応入っとけみたいなものなのだろう。
本当に、曽祖父たちの考えていることはさっぱりだ。
それにここには、従兄弟がいる。それが私を、思い出すたびに憂鬱にさせた。
しかも同年代なのだから最悪だ。上は去年卒業したので、その分まだましと言えるだろう。
「……はぁ…。グリフィンドール生の半径10m以内に入りたくない…」
「例の暗殺従兄弟?」
「あー…、それは上だね。そっちじゃなくて、能無し野郎」
「ああ、一々文句の言ってくる……。…名前は忘れたけど」
「リミックス・フォーリンガル」
吐き捨てるように名前を言った。
そいつは一言で言うと、鬱陶しい。会うたび会うたびに何かにつけて、文句と暴言を吐いてくる勘違いも甚だしい奴だ。
いつもいつも、なぜか喧嘩腰で鬱陶しいことこの上ない。
暗殺よりは可愛げがあると思われるが、この頃は暗殺を軽く防げるようになってきたので、正直、暗殺の方がましだ。
「あー、でもそうか。合同授業とかあるんだったっけ……。うわ、嫌すぎる」
グリフィンドールとの合同授業を考えると頭痛がしてきた。
リミックスは私の父の姉と、半純血の魔法使いとの間に生まれた3/4純血だ。
そのため性別は男だが、ミュステリア家当主になる継承権を持っていない。
だから、ミュステリア家次期当主である私を妬んでいるんだ(と思う)
「……そんなに欲しいのなら、ミュステリア家なんて今すぐにでもくれてやるのに」
「僕だったらその権限を、大いに有効活用するけどね」
「え、やだ、なんか怖い」
なんて冗談を言ったら、リドルに溜息をつかれた。しかも盛大に。
でもリドルの発言も、冗談に聞こえなくてまじで怖い。
多分、本当に冗談では無いのだろう。これだから質が悪い。
「……フィオル」
「?」
そんなことを考えていると、ふいにリドルに声をかけられる。
さっきのこと、やっぱり怒っているんだろうか。
「いや、リドル。さっきのは本当に冗談……」
「そのことじゃなくて」
「じゃあ、なんのこと?」
「ホグワーツに来た意味があるのか、ってこと」
「ああ……」
二、三前の話題である、私がここに来た意味はあるのかということについてだったみたいだ。
「少なくとも僕は、フィオルがここに来た意味はあると思うよ」
「なんで」
「それを、見つけるんだ」
「?」
リドルが何を言いたいのかが、さっぱり分からない。
ホグワーツに来た意味を見つける?ホグワーツで?
「まぁ、今は分からなくてもいいと思うよ」
「はあ……?」
そんなことを話している間に、少ない荷物は片付いた。
これから七年間は、この部屋が私の家となる。
あの家と比べると、どれだけましだろうか。ここが楽園に思えるほどだ。
まぁ、なぜ七年間もここにいなければいけないんだ、という不満は未だに残るが。
それにしても、これからどうしようか。
暇と退屈が襲い来る前に、何かを考えなければ。
あぁ、そうだ。リドルに何の本を読んでいるのか聞いてみよう。きっと、話は長くなるだろう。
「ねぇ、リドル。何の本を読んでいるの?」
―淡い期待を花弁に乗せて―
(ほんの少しだけ、ここに来た意味があると期待してみる)