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金魚草が動揺する時
心に堕ちた枯葉

「ねぇねぇ」

「…なに?」


私は漆黒の革でできた中々に座り心地の良いソファーの上に座っている。
足を忙しなくぶらぶらとさせながら、横で実体化して読書に耽っているリドルに話しかけた。


「私はどこの寮に入ると思う?」

「………」


そんな私の問いに、リドルはしばらく考える素振りを見せた。
あまり他人のことを考えるのを面倒だと嫌がるリドルだが、私のことは面倒がらずに考えてくれたりする。

私は後一ヶ月もすれば、ホグワーツ魔法魔術学校に入学しなければならない。
嫌だとは思わないが、早く行きたいとも思わない。はっきり言ってどうでもいいものだ。
だがしかし、この家を出れるというのはとても嬉しい。ここは息がつまる。
祖母が亡くなって、ここ――ミュステリアの本家に来たわけだが、どうも馴染めない。とても窮屈に感じられる。
そのため、この家から解放されるということはとても嬉しい。
そうは言っても、あっちには七年間も居なければいけないわけで、それはそれで退屈だ。
だがそんな長期間いるわけだ。絶対にその学校生活に影響をあたえるであろう寮分けのことは気になった。


「スリザリン」

「スリザリン?リドルと同じ?」

「絶対というわけではないけれど、可能性は高いと思うよ。フィオルは純血なわけだし」

「…私、どこの寮が嫌とかはないけれど、もし入るのならリドルと同じスリザリンがいいと思ってた」

「なぜ?」

「リドルがいた寮のことを知りたいから」


私はそう言ってのけた。
これは本心からの言葉であり、他意があったわけではない。
純粋に、今まで共に過ごしてきたリドルのことをもう少し知りたかっただけだ。
もちろん、リドルとあのヴォルデモートが同一人物であることは知っている。
だが、リドルがあの人になることは無いし、全く気にもしていない。
実体化したり透けたり、チョーカーの中にいたりと忙しないが、それはそれで飽きがこなくていい。
世界で一番恐ろしいのは、退屈と飽きだ。それが無いということは、とても素晴らしいことだ。
それに無駄なことを言わないし、勉強も教えてくれる。


「僕の…?…そんなことを言ったのは、フィオルが初めてだよ」

「どういう意味?」

「フィオルが変人だって意味」

「そりゃどーも」


私がそう言うとリドルは薄く笑った後、また読書を再開する。
ちなみに読んでいる本の題名は、文字がどこの国のものか全くわからないため読めなかった。
本の厚さは、持っているだけで手首が折れてしまいそうな厚さだ。
その本はなに?と、質問する気さえおきない。

と、丁度その時、部屋の扉を二、三度叩く音がした。
中々に乱暴な手つきだ。それだけで誰だか分かってしまった。私はぴくりと眉を動かし、顔を強張らせた。


「……何の用?シェープ」

「晩餐のご用意ができましたので、下に降りて下さい」


シェープとは、ミュステリア本家の屋敷しもべ妖精だ。私は中々好きになれずに嫌悪している。
シェープだけではない。曽祖父や曾祖母、叔父、叔母、伯父、伯母なんてものについては、顔も見たくない。
従兄弟なんて、何度殺されかけたことか。きっとリドルがいなければ、とっくに私はこの世には存在しないだろう。


「嫌だと言ったら?」

「本日は大事なお話があるそうなので必ず来るようにと、旦那様が」

「……分かった。すぐ降りる」


気配が扉の前から遠ざかると、私はリドルに声をかけた。


「…一緒に来る?」


リドルは食べなくてもよい上に、空腹も感じない。だが、食べれないというわけでもない。
私が誘ったのはそういう意味ではない。リドルの存在は屋敷のものには隠してある。
誘った理由は、チョーカーの中にいて一緒に話を聞くかということだ。
私自身、リドルにいてほしいということもある。本当に私は、リドルに甘えっぱなしだ。

私がそう聞くと、リドルは無言で本を閉じチョーカーに吸い込まれるようにして消えていった。


「……ありがとう」


そう呟き、全く晴れない思い気持ちで、晩餐という名の拷問へと足を運んだ。








―心に堕ちた枯葉―

 
(憂鬱はやがて諦めへと変わりゆく)





枯葉=メランコリー , メランコリー=憂鬱


(急に年月が経ちましたが、その間のことはまた後ほど。。。)




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あきゅろす。
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