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至福の足音




確かに以前より大きいけど、目の下にある古傷はごまかせない。いや、それ以前に雰囲気で分かる。
嗚呼、ルルだ。

「ごめんルル、気付けなくてごめん」

狼種の中でも体格の大きい『タブーロウ』って呼ばれるモンスターで、名前はルル。
ラディのお気に入りの一匹だったりする。
そして俺のお気に入りだったりもする。

「クーン、クーン」

狼の筈なのに、俺に懐いてくれて、狼の筈なのに、犬みたいだ。

「フフッ、俺も会いたかったよ」

俺の小さい体は、ルルの巨体に押しつぶされそうになる。
でもご心配無く。

「・・・いつまでやってるつもりだ」

なんだかんだ言って優しいラディが助けてくれるからさ。

腕を掴まれ立ち上がらせられる。

ラディはいつものスタイルだった。

片側だけはだけさせた、女物のように動きにくそうな長着の菖蒲色の着物に、右手に煙管(キセル)。冷たい印象の細い漆黒の瞳。その右側の目尻に泣き黒子。髪は紐で結んでいるが、後頭部からちょこっと出るだけで、お侍さんみたいだ。中央分けでもろに見えてしまう鋭い表情が怖い。
見た目は20代半ば・・・だろうか。

ちなみに俺に対してちょードS。

「また煙草?体壊すよ?」

「こっちは誰かの所為でストレス溜まりまくりだ」

「・・・」

あー、それ俺って言いたいのかよ、ふーん。あそう、

・・・酷いな!激しく傷ついたわ!!

「もうラディなんか知らん!」

「“知らん”では済まされん」

「フーン、だ!ルルは俺の味方だもんなーっ?」

「ガウ」

俺の腕を甘噛みするルル。嬉しい・・・が、正直痛いし、有り難迷惑なのは否めない。

 パチン。

またしても魔法を使う音。ラディが煙管に火を点けたに違いない。周囲に甘い香りが広がった。

「クーン」

痛さで涙目になってる俺を見てか、顔と同じくらい大きい舌にベロリと舐められる。顔面に涎がべっちゃりついた。気持ち悪くて顔をしかめる。これならいつもの鼻すりすりが良かった。・・・鼻息荒いけど。

「ルルー、ラディに虐められたりしなかった?」

「ふん、くだらん」

「くだらんって、自分の飼い犬でしょうが!や、飼い狼・・・?」

どっちでも良いけど馬鹿にされたら嫌だから一応悩んでみる。

「・・・馬鹿者」


 ガーン!!!

「なっ、なっ、」

結局馬鹿扱いなんですね!
もういいやい。

「ハァ・・・」

顔を斜め上に向け、天井に向かってフッと吐き出された白煙。
それは濃さがあまり無く、煙草が尽きたことを表していた。

え、待って!

「家の中に煙草のカス捨てるなって言っただろ!?」

カッと頭に血が上った俺に対し、ラディは至極冷静に煙管の向きをひっくり返し、自分の腕に雁首をトントン当ててカスを落とした。

慌てて止めようとするけど、カスはそのまま消え去ってしまった。

「あ、」

そういうこと・・・

魔法で消すならそう言ってくれたら良いのに・・・

「それで、最近はどうだった」

「え、何が?」

ルルという極上のソファに包まれながら、伏せの状態で目を瞑るルルの温もりを感じる所為か、眠たくて思考があまり定まらない。

「学校だ」





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