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至福の足音
黒の従者


「ルイスの時間を、俺が奪うわけには―っ」


 ―ザッ


その時、一陣の風が2人の間に流れた。

メディスリーの髪が浮き、エミルの前髪も横に流れて視界を遮る。

「うっ、わ、」

あまりに急なことで、バランスを失い、後ろに手を付く。

それを助けようとしたメディスリーが伸ばす、透明のような腕。だが、どうやら本当に透明なわけではないらしい。

ガッと鷲掴む音まで聞こえ、登場した人物に、彼女は目を見張った。

その印象は、まさしく黒。
黒の短髪に黒いピアス。大人びた印象のある黒いスーツに黒いネクタイ。その所為で際立って目立つのは白いシャツと、右手首にあり、光沢のある細い赤い腕輪。それから―、

(綺麗なオッドアイ・・・)

薄い青と緑の瞳。青い側はいわゆる銀目だ。
吸い込まれてしまいそうなほど深い哀しみを映しているような印象だった。

だが一瞬見るのをやめて目元全体を見ると、警戒心剥き出しで睨んでいるのが分かる。眉間に皺は無かかった。つまり、目だけで相手にものを言うことが出来るのだ。

「・・・」

「へ?な、何で、ここに・・・っ?」

エミルの口振りから考えて知り合いだ。

(手荒なことをするわけにはいきませんね・・・)

黙ったままこっちを睨んでくる黒い男に半ば呆れ、眉を八の字に寄せた。

『貴方は・・・?』

「主を泣かせたのは貴様か」

『・・・、泣かせたと言うより―』

「言い訳は聞かぬ。・・・貴様、許さんっ!」

「だ、ダメだ!レオ!!」

ビュッ、と、風を裂く疾風のように速い黒い左腕。

メディスリーは地に右手をついて後ろに回避した。軽やかな流れにエミルも驚く。なんせ、彼女が闘う姿など見たことがないのだから。

「チッ」

『もうおやめなさい』

静止の声も聞き入れず、黒い者はメディスリーにパンチを繰り出す。その勢いは相変わらず、力強さが伝わるほど速い。だがそれも、ひらりひらりとかわされてしまう。

遂に痺れを切らした相手は、メディスリーの小鹿のように細い足に自分の足を掛け、

 ガッ

バランスを失わせた。

背中から地面に倒れそうになるメディスリーに向かい、相手はグッと握った拳を振り下ろす。

だがそれが何かを撃つことはなく、ピタリと宙で停止する。

「・・・レオ」

2人の間に入ったのは、

「テメェ主人の命令が聞けねえってのか?あぁ゙?」

エミルだった。
ただし違うバージョンの。

「ある、じ・・・」

怒れる気持ちが萎えた相手は拳を下ろす。

メディスリーはエミルに支えられながら、初めて見るもう一つの彼を見つめた。




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