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●白いと青い



§



「何やってんの!?」



静まりかえった廊下に響いた怒声とも取れる声に、歩を止め眉を潜めた。

声はどうやら空き教室の一室から聞こえてくる様だ。
誰が何をしていようが自分には関係ないし、興味もない。
黙って通り過ぎようかと思った時だった、



「何で、あんなダサ眼鏡ひとりに手こずるんだよ?」



ふいに耳に入ってきたダサ眼鏡と言う言葉に思い当たる人物が浮かび、入り口の前で歩を止めた。



「あんなやつヤルくらい簡単だろ?どうしで出来ないんだよ!僕が折角考えてやったのにっ!」



どうやら喚き散らしているのは俺の親衛隊長気取りの奴だ.....名前は、何ていったか?
まぁ、良い。興味ない。

だが話しには興味がある。無意識に口端が上がる。






「その話し、よく聞かせてもらおうか?」

「ぇ....!か、神水カミナさまっ!!」



扉にもたれ掛かる様にして相手を見下ろす。
それだけで神水様と、騒ぐ連中に冷やかな微笑が溢れる。
これは嫌悪感や哀れみ、蔑みからくるものであって他に意味はない。
気付かないコイツ等が悪い。これだけで生きていけるなんて心底幸せな奴等だ。



「か、神水さまっ!あ、あの」


そいつは、今まで壊れたラジオの様にキーキーと怒鳴っていたのが嘘の様に、満面の微笑で俺に熱い眼差しを向けてくる。
コイツは確かムシャクシャした時、何度か抱いてやった。それだけで勘違いし、期待しているのが腹立たしいが、ここは我慢か。



「お前、アイツに何かしたのか?」



相手を見下ろし、静かに尋ねた。
と、言っても大体は予想がつく。コイツ等、親衛隊とやらがするのはえげつない行為ばかりだ。
だからと言って、どうする訳でもないが...。





「ぇ、その...アイツ邪魔だし偉そうだから、それにっ!神水さまに失礼な態度を」

「そうだな、」



俺の問いに直ぐ様反応し答える小柄な男に適当に相槌を打つ。
確かに、食堂でのアイツの態度はムカついた。
不細工な癖に、この俺に楯突きやがった。
食堂で俺が言った言葉を忘れた訳じゃない、コイツ等が騒ぎ出す事は計算済みだ。
自ら手を出すまでもない、邪魔な奴は俺が命ずる訳でもなく、コイツ等がかたずけてくれる...お得意のえげつない方法で。



「それで?」



続きを促すと、目の前の小柄な男は少し焦りを見せ始めた。



「あ、あの....それが上手く行かないみたい、です」

「?」



その言葉に俺は眉を寄せた。
コイツが指示して手こずるなんて珍しい事だ。



「あの、それが...あいつ、あの庭に逃げ込んで...」



吃りながら発せられた言葉に思考を廻らせる。
コイツが言うあの庭とは恐らく、憎たらしい風紀委員の坊っちゃんの庭だろう。



「それで?」

「え、ぁ、えっと...無事みたいです」



本当にしつこい奴ですよね?と忌々し気に話す相手を後目に、俺は一瞬耳を疑った。
あの庭に入って無傷で済んだ奴の話しは聞いた事がない。
あいつは、あの男はそういう奴だ。
俺達の事をどうこう言える立場ではない。あの男も風紀委員と言う肩書きで好き勝手やっているのだ。
考えて見れば俺達より、あいつの方が問題ではないのか?
あの凶暴で冷徹な男には教師ですらまともに話さないし、話している所も見たことがない位記憶にない。
当の本人も話すと言えば何時も近くに寄り添っている無口な男――名前は忘れたが。ぐらいだ。



そんな奴の大事にしている縄張り(庭)に乱入し、何故無事でいられるのか?
唯の運の良さか?それとも...

決して自ら誰にも触れようとはしない潔癖症の千明でさえ、あのダサ眼鏡に夢中らしい。
俺には一生かかっても理解出来そうにないが、一体何がそこまでさせるのか...?



「か、神水さま?」



考えこんだまま、その場に背を向けた俺に男の焦った声が聞こえたが、振り返らずに歩を進める。
考えれば考える程分からない。
まるで底なし沼に足を踏み入れたかの様だ。



「...おもしろい」



いつしか小さな微笑が盛れていた。
あのダサ眼鏡がどこまで持つのか、どれだけなのか見てみるのも悪くない。暇潰しにはもってこいだ。

さぁ、俺を楽しませてくれ。がっかりさせないでくれよ。




不適な微笑を浮かべたまま、足早に生徒会室へと足を進めた。





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