●白いと青い
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「せ、先輩...用がないなら帰って下さい!」
「御免、御免。どうすれば良いの?」
俺が頬を脹らませて言うと、苦笑する千明先輩。
先輩はそのまましゃがみこむと、土を弄りはじめた。
「え!せ、先輩?」
思わず上擦った声が出る。
だって、先輩は潔癖症だと言うのに軍手も何もしないまま....
「あ、御免....まずかった?」
眉を八の字にして言われ思わず恐縮してしまう。
「い、いえ!違うんです。その、大丈夫なんですか?」
俺が心配して訪ねると、始め何が?という顔をしていたが、思い当たる節に至ったのか、ああと頷いた。
「大丈夫だよ?」
「ほ、本当に?」
俺も地面にしゃがみ込み、千明先輩と視線を合わせた。
千明先輩は満面の微笑を湛え、
「うん。純白と一緒だからねVv」
「...そうですか」
「本当はこうゆうの初めてだから、よく分からないんだけどね?」
そう言って首を傾げた千明先輩に、微笑み返した。
「楽しいし、嬉しいですよ。自分が一所懸命育てた花が咲いたら。綺麗な花達を見てるだけで心が癒されます」
「そぅ、じゃぁ咲いたとこ、二人で見れたら良いね?」
「え?」
子供みたいに、はしゃいでいる俺の話を千明先輩はニコニコしながら聞いていた。
二人で見れたら良いね、と言った千明先輩の言葉に俺は顔を上げた。
「だって、僕も手伝うんだし一緒に見ても良いんだよね?」
首を傾げて問う千明先輩。
俺は言われた事の実感が沸かなくて暫くポカンとしてたけど、胸の奥から沸沸と何かが沸き出てくるのを感じた。
それは嬉しいと言う単純だが正直で真っ直ぐな気持ち。
「は、ハイ!有難うございますっ!!」
思う存分花壇を弄り、一段落つけて手を洗う。
俺の隣で鼻唄混じりに手を洗っている千明先輩。
ふと、千明先輩の手に目がいく。
長くて綺麗な手をしていて...きっと水仕事や土いじりなんてやった事ないんだろう...。
そう思うと先程、千明先輩が言ってくれた申し出が嬉しくて、俺は気付かれない様に少し笑った。
「先輩、これからどうするんですか?仕事は大丈夫です?」
あまり手を凝視する訳にもいかず、慌てて会話を振った。
水を止め、ハンカチで手を拭きながら千明先輩は此方に視線を寄越す。
「純白は?」
此方が尋ねたのに、何故か聞き返される。
「え?俺は教室に帰りますよ。凛都が待ってるし...」
「じゃ、送ってく」
にこりと微笑んで、千明先輩は俺の手を取った。
送ってもらう程でもないのだが、いつの間にか先生は居なくなってるし、一人で帰ったら凜都に何を言われるか分かったもんじゃない。
遠慮なく、先輩に送ってもらう事にした。
千明先輩はニコリと微笑んでいた。
******
教室に着くまで、他愛もない世間話をした。
千明先輩と、ここまで自然に話せる事に驚いたし嬉しかった。
勿論、皆の視線は痛いぐらいだったし、凜都から説教を食らったのは言うまでもない...
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