●白いと青い
種
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「ふあぁぁ〜〜〜」
午後の授業中。大きな欠伸をかます。
窓側の席に着く身としては、暖かな陽射しのオマケに満腹とくれば無理からぬ事だ。
あれから数日立つが、これと言って何かある訳ではない。寧ろ、今までの騒々しかった日々が嘘の様だ。
親衛隊とやらは、煩いが凛都や帯刀が居たお陰か被害はない。
生徒会の人とも、風紀委員の人とも会わなかったし(逆に千明先輩を見掛けないのが不自然だったが)
良かったと言えば、こんな事があったからか帯刀と凛都が鉢合わせしても口論する事が無くなった。
元から、そんなに仲が悪い訳ではないのだと思う。
だから気が緩んでたのかな...
―――休み時間
「凛都、これ美術室に運ばなきゃいけないんだ。少し待ってて。」
運が悪い事に、美術担当の先生に教材運びを頼まれたのだ。
俺の言葉に凛都は眉を寄せ、
「分かった。一緒に行こう。」
凛都ならそう言うだろうと思っていたから、俺は苦笑した。
ホントに凛都は心配性だなぁ...
「大丈夫だよ。先生と一緒だから。」
教師と一緒なら問題ないだろうと言えば、凛都は少し考えて、
「じゃぁ、帰りはどうするのさ」
「帰りも大丈夫!先生に送ってもらうよ。丁度、この階の別の教室に用があるみたいだから」
美術室に教材を戻した後に、必要な物を取って同じ階にある教室へと向かうらしい。
丁度、この教室の前を通るし、それなら大丈夫だよね?
「....でも」
相変わらず、凛都は渋ってた。
「大丈夫だよ!何かあったら、おもいっきり叫ぶし!それに先生と一緒なんだよ?」
暫く考える素振りを見せた後、観念したのか軽く溜め息を吐き頷いた。
「....分かった。」
でも無茶は駄目だぞと、念押しされながら俺は教室を後にした。
******
何事もなく無事に美術室へと辿り着いた俺は、壁に飾られている彫刻や絵画に目を奪われていた。
別に、詳しい訳ではないが、ここに飾られている作品が凄いものだと言うことは理解できる。
...流石、金持ち秀才が通うだけあるな。
『天音君、絵画に興味あるの?』
不意に、後ろからかけられた柔らかな声音。振り返ると、美術教師の翁川(オイカワ)先生がニコリと微笑んでいた。
翁川先生は20代後半の女教師で、物腰の柔らかな人だ。
「あ、いえ。ただ、凄いなぁって思って見てただけです...あっ!見たりするのは結構好きです!」
俺が慌てて答えると、翁川先生はクスリと笑い、
『そう?...あ、天音君良かったらこれ、あげるわ』
翁川先生から差し出されたのは、紫色のリボンで結ばれた小さな包み。
中身は分からないが、触った感じ、何か小さなゴツゴツしたものらしい。
「?なんですか?...開けても良いですか?」
『どうぞ』
するりと、リボンを解いて中を見ると、
「....種、ですか?」
そう、そこにあったのは小さな種だった。
しかも沢山。おまけに何種類かあるようだ。
『そ、花の種よ!私が貰ったんだけどね私って、そういうのからっきし駄目でね〜』
と、翁川先生は悪戯に笑った。
俺はと言うと、花は大好きだ。
病院に居た時もよく庭に出ては花壇を弄ったものだ。
『だからさ、天音君、良かったら貰ってよ。私より大事に育てられそうだし』
「有難うございます!嬉しいですっ!」
目を輝かせてお礼を言うと、翁川先生は少し照れ臭そうに笑った。
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