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縞色猫×白色兎

落とし穴

 仕事を済ませて女王の城から帰る途中、誰かが作った落とし穴に白兎は落っこちた。

「痛たた・・・」

 上を見上げてみれば地上は高く、上れそうにもない深さだと知って白兎はため息をつく。

「誰だよ、こんな所に落とし穴何か掘った奴は」

 手を伸ばしても届くはずがなく、跳んでみせてもまだ遠くて白兎はバランスを崩して再び穴の底に尻餅をつくはめになってしまった。

 どうしたものかと思いながら銀の懐中時計を取り出して考えていると、頭上から聞きなれない声がした。

「キシシシシ、茶色じゃないね。誰だい君は」

 短くピンと尖った三角の耳と蛇のように長く揺れる尻尾が目に入ったが顔は逆光のせいで白兎にはよく分からなかった。

「誰・・・?」

 目を細めて白兎は自分より高い所にいる相手に尋ねると愉しそうな笑い声が返ってきた。

「キシシシシ、俺はチェシャ猫だよ」

 チェシャ猫は頭を左右に揺らしながら穴底の白兎を見下ろすと真っ直ぐこちらを見つめている白兎と目があった。

「キシシシシ、お茶好きの三月兎を落とすつもりだったのに掛かったのは白い兎か」

「・・・!お前が掘ったのか!この落とし穴を」

「お前じゃない、チェシャ猫だよ。白い兎君」

「そんな事より質問に答えろよ!」

「うん、三月兎を落とす為にね」

 チェシャ猫の悪びれない、寧ろ愉しそうな返事に白兎は苛立って睨みつけた。
 そんな視線を受けながらも愉しそうなチェシャ猫の態度に白兎は更に苛立ちが増していく。

「早く此処から引き上げろよ」

「キシシ、それが人にモノを頼む態度かい?」

「お前が掘った穴だろ!」

「だからお前じゃなくてチェシャ猫だって」

「そんな事はいい!」

「しょうがないなぁ、ほら手をだしなよ」

 すらりと伸びた長い手が目の前に差し出され、白兎も腕を伸ばしてその長い手を握り返した。
 冷たい冷えた白兎の手とは違いチェシャ猫の手は暖かくて柔らかいものだった。

 手を握り返されたチェシャ猫は嬉しそうにニンマリと微笑んだ。

「あ・・・」

 チェシャ猫が小さく声をもらすと引き上げるつもりが自分までもが穴の中に落ちてしまった。
 当然白兎は上に落ちてきたチェシャ猫を睨みつけながら怒鳴る。

「なんでお前まで落ちてくるんだ!」

「キシシシシ、君が引っ張るからだよ。それと俺は」

「だから今は呼び方はいい!」

「キシシ、君はいい匂いがするね」

 押し倒すような形で落ちたチェシャ猫は白兎の胸元の匂いを嗅ぎながら笑う。
 いい匂いだといわれた白兎はその紅い瞳のように顔を真っ赤にさせてチェシャ猫を押しながら叫んだ。

「!!・・・早くどけ!手を何時までも握るな!」

「キシシシシ、君は可愛いね」

 食べてしまいたいよ、そう言って白兎の首筋をざらついた舌でぺろりとひと舐めしてから名残惜しそうに離れた。
 そんな場所を舐められたりしたことのない白兎は顔を更に紅くして握り締めた砂をチェシャ猫に投げつけた。

「何をするんだ馬鹿!」

「キシシ、お前の次は馬鹿かい?」

 掛かった土を払い落としながら座ったままの白兎に笑いかけた。

「それよりも二人とも落ちてどうするつもりだ」

「あぁ、それは大丈夫だよ」

 言うが早いがチェシャ猫は素早く軽々と穴から出てしまい、唖然と見上げる白兎に最初と同じように手を差し出した。

「キシシ、今度は引っ張らないでくれよ?引っ張るのは俺の方だからね」

「・・・分かってる」

 白兎が手を握ったのを確認するとチェシャ猫は勢いよく引き上げたが、勢い余って今度は白兎がチェシャ猫を押し倒す形になってしまった。

「大胆だね、白い兎君・・・キシシシシ」

「っ!!お前が勢いよく引っ張りすぎるからだ!」

 直ぐに離れようとした白兎の腰にチェシャ猫は素早く腕を回して微笑んだ。

「離せ!」

「キシシ、何をだい?」

「僕の腰と手だ!」

 チェシャ猫は笑ったまま手を離そうとはしなかった。それどころか力を強めて自分の方へと引き寄せようとする。

「だってまだお礼の言葉もらってないし?」

「お前のせいで落ちたんだぞ」

「キシシシシ、ならこのまま離さないよ?」

 俺はその方がいいんだけどね、と聞こえないように小さくチェシャ猫は呟いた。

「どうするんだい?」

 チェシャ猫は愉しそうに笑いながら首を傾げた。その間も手の力は緩められる事はなくしっかりと白兎を捕らえている。

「あ、ありがとう・・・チェシャ猫」

 不服そうに顔を反らしながら答えた白兎に満足したチェシャ猫はゆっくりと手を離した。

「どういたしまして、白い兎君」

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あきゅろす。
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