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だってそういうことでしょう
惚れた弱味 (K×N)
海斗×直人
キリリク/エロ無し/

ありあ様に捧げます



今思えば全てにおいて状況が最悪だった。

年に一度の、サークルOBとの親善試合。
めちゃめちゃ上手い卒業生がいるとかで、それは楽しみにしていた。
ただ、同じポジションの先輩はすぐにバテてほぼフル出場。
しかもそのめちゃめちゃうまい卒業生のマークに付かされて、正直体力を使い果たした後、恒例の懇親会。

まぁそこまでは良いとしよう。

だけれどそこからがまずかった。

酒が強くて潰れた事がないとかいういらない前評判を先輩達がOBにぺらぺら喋ったりしたのがまずかった。
ついでに何故かOBに気に入られたのもまずかったし、
同回生のマネージャーの女の子が俺の事を気に入っていて、応援ムードがサークル中に蔓延していたのもまずかった。

体育会系のノリらしく、結局飲み比べみたいな事になって
逃げることも出来ずにひたすらビールを煽り続けて何杯飲んだのか記憶も定かじゃなくなった頃


「もー勘弁してください!」


ばたん

見事に潰れた俺である。


「直人君大丈夫!?」


女の子の声が聞こえる。
心配してくれてありがとうマネージャー。

でも、いや、無理。
頭いたいし吐きそう。


持って帰れとか、ヤってしまえとか、先輩達の下品なヤジが聞こえる。

うるさいな。
マネージャーが可哀想だろ。

でも、だめだ。
これ、一人で帰れね・・・

携帯を手に取る。
コール音を聞きながら、意識を手放した。



 ̄ ̄ ̄ ̄


俺、なんか神様に嫌われるような事でもしたんだろうか。

そもそもまだ俺未成年なんだけど。
っていうか、そんな、なんにんがかりで潰そうみたいなの辞めてくれ。
大人気なさすぎるだろ

だめだ。頭ぐわんぐわんする、


「直人君、大丈夫?」


潰れて、そのまま寝ていたらしい。
宴会はまだ続いているらしく、会場内は騒がしかったけれど会場の外、簡素な引き戸を隔てた廊下だけは少し静かで涼しかった。

下は板間のはずなのに後頭部が柔らかい。

目を開けるとマネージャーの顔がすぐ上にあった。

あ、俺膝枕されてるのか

海斗さんが言ってたの分かるかも。
女の子の膝枕、気持ちいい。


「・・・ごめ、重いだろ」


頭が回る。世界が回ってる。
体を持ち上げようとしたけれど言うことを聞かなかった。


「いいよ。そのまま寝てて」


少し赤い顔のマネージャーがくすりと笑う。
あ、ちょっと可愛い。
揺れる視界の向こうで笑う彼女はいつもの三割増しで可愛かった。

純粋に優しくされたのなんていつぶりだ。

あー、頭ぼーっとする。

惚れそう。

浮気とかそんなんじゃないし

綺麗な髪してる。触りたい

マネージャーのさらさら揺れる髪の毛に指を伸ばした時だった。


「さっきから直人君の携帯鳴ってるよ」


彼女がその場を誤魔化すみたいに赤い顔で俺に携帯を手渡した。
可愛い。

なんだよ。せっかくいま、

もうちょっとこのまま、

携帯を見るのも億劫で、だらりと画面を持ち上げて、ディスプレイを見もせずに電話を取る。


「・・・なんだよ。今、いいとこ」


「お前が迎えに来いっつったんだろーが」


電話先の声と、すぐ近くから聞こえた現実の声。
同時に響いて、ぎくりとした。
ぎぎぎ、と膝枕されたまま横を振り向く。

携帯を持ったまま冷めた笑顔で見下ろす彼がいて、

一瞬で背中が寒くなった。


「ごめんね。コイツ迎えに来たんだけど」


「え、あっ、はい」


「重かったでしょ。ありがとう」


乱暴に俺を引っ張り起こしながら、海斗さんはマネージャーに完璧な笑顔を振り撒いた。

腕を引っ張られたのはいいものの、力が入らなくてだらりと体は脱力したまま、立ち上がることもできない。
海斗さんがぴたりとフリーズする。


「・・・コイツどんだけ飲んだの?」


「・・・え、っとたくさん?」


やばい。
これホントやばい。


「ごめんね。なんとかするからもう大丈夫だよ。飲み会戻っておいで。」


「え、でも」


「・・・あ、そうだ。連絡先とか教えてくれる?今度お礼させて」


「あ、いや、あの」


戸惑うマネージャーに、海斗さんの声がぐっと甘くなる。


「・・・ご飯とか、だめかな?」


「え、」


「ごめんねこんな時に。でも、こんな可愛い子に会えると思ってなかったから」


照れの混じった口説き文句。
完璧。


「あ、いえ、ぜひ!連絡先は直人君から聞いてください」


彼女は赤い顔を隠すかのように宴会会場に戻っていった。

どうやら俺のよこしまな恋心は力ずくで潰されたらしい。
コクられもせずに終わった。つらい。


「立てる?」


「・・・無理」


海斗さんが腕を引っ張って起こそうとするけれど、役立たずの体には力が入らないまま。

はぁ、と海斗さんが大きなため息をつく。

ごめん、ごめんってば


「絶対吐くなよ」


「・・・がんばる」



体が浮いた。

・・・この年になっておんぶされることがあるとは。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






冷たい夜風が火照った体に気持ち良かった。
ひょろいと思っていた海斗さんの背中は思ったよりも居心地がいいし、揺れも相まって寝てしまいそう。
首筋が近いせいか、海斗さんがいつもつけている香水の匂いが強く感じた。
この人、首にもつけるのか、
俺、手首派なんだけどな


「いいにおいする」


「お前は酒くさいよ」


「おれ、このにおいすき」


すんすんにおいをかいで、笑う。
くすぐったそうに首を竦めるのがなぜか凄くおもしろくて、
なんかすげーたのしい。


「頼むから大人しくしてくんない?ただでさえ重いんだから」


「これなんの香水?おれもこれにしようかな」


「話聞けって」


この匂いは好きだ。
首筋に顔を埋めると、海斗さんは何か言おうとしていたけれどとうとう諦めたみたいだった。


「やっぱ、重いな。タクシー使うほどの距離じゃないけど、地味に遠い」


海斗さんがため息をつく。

そんな中、俺は発見してしまった。


「なんか、しゃべって」


「は?何?」


「ふ、ふふっ」


喋る度に、喉が震えておもしろい。
体が密着しているせいで、大きく聞こえるし、なんか響く。


「あー」


言われた通りにはいはいと海斗さんはつまらなそうに意味のない声を出す。
声帯が震えておもしろい。


「声は好き」


「ああそう、ありがと。・・・声とか匂いとかマニアックなとこばっかだな」


「よってない」


「酔ってるやつはみんなそう言うんだよ。お前ホント人の話聞かないよね」


たしかに。
そうか、やっぱ俺酔ってんのか。

海斗さんがため息をついた。
時間帯が遅いせいか、街灯があるだけの暗い夜道には俺たち以外に誰もいなくて、通いなれた道のはずなのになんだか新鮮に感じる。

・・・会場、海斗さんの家から近くてよかった。
深夜なのに呼び出して、来てくれるなんて。
この人どんだけ俺のこと好きなんだろう。
わらえる。

けれど、ちょっと苦しい。


「ごはん、いくわけ?」


「あ?」


ずっと引っ掛かっていたこと。
マネージャーと約束していたのを思い出して、酔いに任せて聞いてみた。


「あの子と約束してた」


「・・・ああ、そうだね」


「ふうん」


海斗さんは素で忘れていたらしい。
さっき言ってたばっかなのに。


「あのこ、おれのことすきだったのに」


「簡単に浮気できると思うなよ」


「つきあってないからうわきじゃない」


「ああそう。じゃああの子と俺がセックスしても浮気じゃないよね」


冷たい声。
ちょっとどきりとした。

海斗さんと、マネージャーが、
この、においをマネージャーが

胸がむかむかする。

回した腕に力が入った。

たしかに浮気じゃない。けどいやだ。この人は俺のことが好きなのに。でも、おれいがいでも
かいとさんは俺のことが好きで、つきあってないからうわきも、でもマネージャーは、
俺は。俺には怒る資格なんて無いから
この人がなにしてても、


「っ」


海斗さんの服を握り締める。
泣き、そ


「・・・ごはん、おれもいく」


「・・・それは意味わかんないよね?」


「じゃあ、いくな」


海斗さんに回した手をぎゅっと握り締めた。
いいにおいがする。背中越しに心臓の音がする。
俺の心臓の音と、二つ分。

うるさい。


「俺のこと、抱けよ」


「どうしたの。そんな事いうの珍しいな」


海斗さんが呆れて笑う。

自分は逃げ道を探しているのに、他の人とは遊ぶなとか。


「抱けよ。」


「今日は無理でしょ」


「俺じゃたたねぇ?」


「ごめんね。意地悪しただけだから」


体はやるから、その代わりに他を見るなとか。
付き合うのは嫌なくせに独占したいだとか。縛り付けておきたいだとか。

海斗さんが俺のこと好きって言うのに甘えている。
結論から逃げて気をそらしているだなんて、我ながらずるい。

だけれどこの関係に名前をつけて、本気になるのは怖かった。
だってそんなの最後の一線だ。
そうなってしまったら、逃げられない。

恋人になるのは嫌だ。
でも俺以外見ないでほしい。
身勝手なのは分かっているけれど。


マネージャー、ごめんね。
多分俺、最低な事してる。

それから。


「・・・ごめんなさい」


「いいよ。惚れた弱味だから」


ずり落ちてしまわないようにしがみついた。
いいにおいがする。

意味が分かっているのかいないのか。
それでも彼は全部飲み込んで笑う。


「・・・あんたの声と、匂いは好き」


「マニアックなとこばっかだね」


海斗さんは俺に甘い。

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あきゅろす。
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