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だってそういうことでしょう
くまといぬ(N,C×Y)

アンケートお礼文、ワルイコト関連

情、の後


机の前、葉山直人は悩んでいた。
目の前には、渡されていたまますっかり忘れていた大きなくまのぬいぐるみがついた鍵がある。
・・・返すべきなんだろうけれど。

家に行くのも嫌だ。
またちょっかいかけられそうだし。

郵送で送りつけてやろうか。
いや、でもどうせ近々会うだろうし。

人目があるところで渡すのも何か嫌だ。
別に友達でもないのに変な勘違いをされそうで。

っていうかなんだよこの熊。
キャラ違いすぎだろ。

苦笑いしながら意外と手触りの良い熊を指でむにむにしている時にはっと我に返った。
大の男が熊のぬいぐるみで遊んでいる姿だなんて、気持ち悪いにも程がある。

・・・と、ここで妙案を思いついてしまった。
会いたくないなら会わなければ良い。

あっちにも会いたくはないけれど、まあ背に腹は代えられないだろう。

決めてからは早かった。

大学はまだ始まっていないし、そもそも用事のない大学なんて寄り付かないだろうからと、連絡を取った後わざわざ家まで足を伸ばした。
佑真の家の隣。律儀にネームプレートに名前まで書いてある家のチャイムを押すと、程なくして現れたのは、千里さんだった。


「いらっしゃい」


千里さんは妙に愛想の良い笑みを浮かべている。 妙に機嫌が良くて不気味だ。


「あ、これ海斗さんに渡して・・・」


「まぁ入れよ。話したいこともあるし」


「え、でも・・・」


手首を引っ張られて、半ば強引に家の中に連れ込まれる。
なんだ。何の話?


「適当に座ってて」


「はぁ。」


上機嫌にコーヒーを入れ始める千里さんに促されてソファの端に腰掛ける。
意外と綺麗に片付いた部屋。
ベッドの上にはどこかで見たことのある服が脱ぎ散らかされていたけれど、たぶん佑真の忘れ物だろうと思う。


「・・・あ、どうも」


とりあえず鍵を机の上に置いておくことにする。
コーヒーを渡されて、対面のクッションの上に座った千里さんと向き合った。


「話って何ですか?」


「いや、その後海斗とどうなったかなぁと思って」


・・・なんだ。そのことか。
正直拍子抜けだ。

千里さん、意外と友達想いなトコあるんだろうか。
相談に乗ってもらった時に言われたことは悔しいけれど正論だったし、その次の日にはその後の結果も聞いてきた。『やっぱり』って言って笑っていたけれど。
なんやかんや気にしてくれているのかもしれないと思う。
・・・まあ相談に乗ってもらったのも結果的にはあんまり意味が無かったけれど
ちょっと見直したな。なんて


「別に変わりませんよ。相変わらずちょっかいかけられてるくらいで」


「ああそう。ならいいんだけど」


少し緊張が解けて言ったのを千里さんは苦笑する。


「なんか嫌なことされてない?」


・・・もしかしたらほんとにいい人なのかもしれない。
俺の相談に乗ってくれようとしてるんだろうか。


「・・・どういう風の吹き回しですか?」


「別に?ただ、前に話した後、佑真が相談に乗ってやれって言ってたから」


千里さんはタバコに火をつけながら笑う。
なんだかそれが照れ隠しに思えて、ちょっと感動してしまった。
形はどうあれ、本当に相談に乗ってくれようとしてくれているらしい。

こんなこと誰にも相談できなかったから、俺のことを気にしてくれているってだけで泣きそう。

お言葉に甘えて相談しようとした矢先

がた、と部屋のどこかで音がした。


「・・・なんか変な音しませんでした?」


「ああ、そーね」


千里さんの瞳の黒がぐっと深くなる。
なんとなくだけれど、ものすごく嫌な予感がした。

千里さんがちらりとクローゼットに視線を送る

物音を立てないように黙りこくると、やっぱりクローゼットの向こうからなにかの物音が聞こえて。
一瞬で涙が引っ込んだ。

・・・ちょっとでも信用した俺が馬鹿だった。
ものすごく聞きたくない。


「犬を飼い始めたんだ」


千里さんが唇を吊り上げる。


「・・・いぬ?」


「そ。きゃんきゃんうるさいけどね。」


可愛いよ。そう言って千里さんはポケットの中に指を突っ込んで何かを弄る。
佑真の服が脱ぎ散らかされているベッド。 さっきからカタカタと小さく物音を立てるクローゼット。なんなら必死に抑えているみたいな息遣いと時々漏れ聞こえる声。
千里さんがポケットのなかに指を突っ込んだ瞬間、物音が激しくなった。
これ、絶対犬じゃない。


「・・・見たい?」


千里さんが質の悪いとしか言い表せない顔で笑う。
全部理解してしまった。
この人、相談に乗るふりして佑真をいじめてるだけだ。

きっと、いや確実にクローゼットの中にはあられもない姿の佑真がいるに違いない。


「・・・遠慮しときます。」


「そう?残念」


頬をひきつらせながら言うと、千里さんは素晴らしく綺麗な笑顔を浮かべていた。

やっぱりこの人に頼むべきじゃなかった。

机の上の熊まで俺に同情している気がする。

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