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リクエスト前編

「学校の七不思議、とかいうの、うちの学校にもあるらしいんですよ。」

放課後の教室。夏も本番に入り、だるい空気でホームルームを手早く済ますと突如としてそんな声が背中から聞こえてきた。どこから現れた、とか、なんでそんな話になったんだ、とか、言いたいことは山ほどあった。しかしそれを忘れさせるほどの気迫で声の主である日望は語りかけてくるので、思わず熊井はごくりと生唾を飲んだ。

「ちょうど熊井先生が入ってくる前くらいだったかな?夜中の第2理科室で音がするんですよ、ガタッガタッ、って。それも毎晩のように。」

「…ほう。」

「管理人がね、調べにいったらしいんですよ。動物か何かが入り込んだんじゃないかと最初は思ってたんですがね。それなのに次の日の朝…」

「次の日の…朝…?」

ここで意味ありげに一旦間を置く日望。その語り口調はさながら夏にテレビでよく見る怪談話家のようであり、薄暗い教室の中で知らされる事実がより一層物々しいように感じた。次の言葉を紡ぐために日望は大きく息を吸い込む。そんな些細な呼吸でさえ物語の一部のようだった。

「死んでた」

「うわぁぁあぁああぁああ!!!!!」

「…てことはないけど。」

「テメェエエエ!!!!」

涙目でキレる熊井にヘラヘラ笑う日望。やっぱり熊井先生はホラー系苦手だった〜と詫びれもなく続けるのについに我慢の限界をむかえて、力いっぱいこれでもかとぶん殴った。ガコンと小気味よい音が校舎を響くと、日望は完全に床ににへばり付く。

「ちゃんと最後まで話を聞かない熊井先生が悪いんじゃないか…」
「黙れ」

「ちゃんと楽しいオチがあるんだよ?実は教員同士が夜な夜なホテル代わりに教室を使っていてがっこんがっこんしてて、それを見た管理人さんがショックで気絶したっていう…」

「…全然笑えねぇ」

「それでクビになったから急遽人員補充で雇われたのが、熊井先生なのでした!」

「聞くんじゃなかったよ」

信じる信じないは、あなた次第です。とキリリと言う日望はいつのまにか完全復活を遂げていた。まだにやにやと笑うこの人の言うことは九分九厘信じるに値しないだろう。あくまで七不思議だから、とつけたしてまたにやりと笑う日望。完全に聞き流すことを決意した熊井は、己の拳を眺めながらゲンコツが弱くなったのかと険しい顔をした。

「七不思議はホントにあるんですよ?」

「は?」

二人きりと思っていた教室に別の人間の声がして思わずマヌケな声をあげる。こんにちはと笑顔で話しかけるのは委員長の河崎。顧問の日望を探しにきたのであろう、様々な美術用具を両手で抱えながらさらに続けた。

「3階の廊下の角にある大きな鏡があるじゃないですか?あそこは夜の12時から一分間だけ、魔界に通じる入口になるそうです」

「魔界って…」

「とっても芸術的発想だねぇ」

熊井も日望も言い方は違えど、完全に信じていませんということに変わりはなかった。流石に非現実的すぎて、それ以上のコメントができない。その流れを感じ取った河崎はあわてて付け加えた。

「もちろん、それは嘘だとわかってます。けど、たまに授業で使う用具だとかがなくなったりするらしいんですよ!紛失したものは全部鏡が見える位置にあったものだったから、そういう噂が広まったらしくて…」

実際に証拠が出てくると、とたんに信憑性が湧く。嘘だとわかっていても、徐々に足元からなんとも言えない感覚がズズズとはい上がってくる。勘違いかなんかだろうと笑う熊井は、しかしながらその顔は軽く引き攣っていた。

「これは調べないといけないねぇ、熊井先生!生徒の安全のために!!」

「先生、とりあえず部室に戻ってください。終われませんから。」
ギリッと真剣な顔をしたまま河崎に引きずられていく日望。そんな様子を呆然と眺めながら熊井は嘘だろと再び呟いた。




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あきゅろす。
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