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百年後の君に告ぐ



百年後の君に告ぐ
百年老いた君になにをしてあげようか。この腕(かいな)に優しく抱こうか、それとも薄桃色の唇に甘い口づけをいたそうか。君は年老いても変わらない。私には若く初々しくしか見えないよ。






「なにをしてるんだ?」

ざぁぁぁー…風が舞うそれにつられて木の葉が舞うそれまたつられて花弁も舞った。

夏目貴志、おれは生まれてこのかた幼いときから現在に至るまで妖怪というものが見えた。妖怪が見えるのは祖母夏目レイコが強い力(妖怪を見る力)を持っていてそれをおれが受け継いだからだという。


おれが妖怪が見えるようになった要因ともいえる祖母夏目レイコのこと、力のこと妖怪のことを詳しく知ったのは、祖母の遺品である妖怪達の契約書「夏目友人帳」を手にしてから。また祖母のつくった「夏目友人帳」を手にしてから自称名のある妖怪ニャンコ先生もとい斑に出逢い、癖にあるとも良い妖怪達にも出逢うこととなった。

それから悪戯ばかりする悪い奴等という印象だった妖怪達も、その個と心をよく見て知ればなかには良い友人になれる者達がいることをおれは知ったのだった。



妖怪が見える、そのことは初めて出来たといってもいい学校の友人や幼いときに両親を亡くし親戚からもたらい回しにされていたおれを引き取ってくれた藤原夫妻には絶対の秘密だ。

そういうことをばれないように生活するのは案外簡単そうに思えて意外と難しい。
なぜなら人がいる所でもお構い無しに妖怪は友人帳を狙い襲ってくるし、逆に妖怪に友人帳に契約した名を返してほしいと言われその名を返したりと忙しい日々だからだ。


今日も学校帰りに「穏便に事を済ませたい名を返してくださらんか」と言ってきた妖怪に丁重に名を返したところ。いまはその後の家への帰り道だった。




なびいた風に目を細め、上を見上げる。見上げた先には、薄桃色の花を可憐に咲かせ道端に不自然に生えた木の枝に腰を掛けているものがいた。

この木は元からここにあっただろうか…?



「ほお、この木が見えるか。私が見えるのか」

上品に木の枝に腰掛けているそいつは、夏目の声に目を見開くと次は見下さんばかりに顎をさげ、にんまり笑った。



「ふふふ、私が見えるならその血肉さぞかし美味かろう。おい小僧食ってやろうか。煮て喰らおうか焼いて喰らおうか、それとも頭からがぶっと一気に喰らおうか?」

脅し文句は夏目の口元をひきつらせるだけに終わる。


「……うむ、この頃のガキは反応が薄くて面白くないな」

昔はこれで恐れおののいたのに…けっ、気が失せたように明後日を向いた。




「貴方はそこでなにをしているん…ですか?」
「おう、少しは口の利き方を変えたか。年長のものには正しく接しねばな」


質問に答える気はないのか……。どうして妖怪というものはだいたいが上から目線なのだろう。ニャンコ先生も然り、この妖怪も上から目線だ。

何百年も生きている我らには敬意というものをうんたらかんたら……、とにかくその話のながいこと。


「…で、はてなんの話だったか」

好き勝手にべらべら話をして、おれの話は忘れていたらしい。もうなんというか見ず知らずの妖怪だが、さすが妖怪というかなんというか。





「……貴方はそこでなにをしているんですか?」
「そうそう、なにをしているという問いだったか。そうだなぁ、空を見ている。過去を見ている。いまはそう、小僧と話をしているな」

「空に過去…?「夏目!!」」


「ニャンコ先生?どうしたんだ?」

とてとてと走ってきた胴体も性格もずぶとい猫ニャンコ先生。



「どうしたとはなんだ、わたしが迎えにきてやったというのに。ん…むむむむ、貴様はなんだっ」

「きさま?お前こそなんだブサネコめ」
「ぶ、ぶさねこだとぉぉ!?にゃにおうーきぃーっ!!」





名前もまだ知らないその妖怪とぎゃーぎゃー騒ぐニャンコ先生。名を聞かなくちゃな……。そう思うと同時に笑みが零れた。





ざぁぁぁー…風が舞うそれにつられて木の葉が舞うそれまたつられて花弁も舞った。薄桃色の花弁がひらひら舞うと甘い香りに包まれた。









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