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孤独戦争最前線


「やあ、酷い様ね」
「………二度とこの場に足を踏み入れてはならない、と前に申し上げたはず」
まるで地球にある広大な森を思わせる深緑の髪は今、滲み出る血に濡れて滴る。
ただ、それが上に落ちているのか、下に落ちているのかは誰の目からも判断出来ない。
今自分が空に立っているのか、地面に立っているのかすらも判らないのだから。
この異空間は人を狂わせる。
しかし、目の前の闖入者はただ平然と番人を見据え、くすくすと笑うだけ。
「だって、今にも死にそうなんだもの。新入りさんが心配になっちゃってね」
「平気です」
鍵杖を支えに、少女は立ち上がる。
若干幼さが残る顔は、時空の扉を預かる身としては少々頼りない風にも見受けられる。
しかし、額から流れる血と同じように、光る赤の瞳は冷たく鋭い。
もしも目の前に居るのが敵ならば、迷わず手にかけているだろう。
「可哀想に」
鎌を持つ、救済者の艶やかな黒髪が揺れる。
番人は何も言わず、白い手袋で額を拭う。すると、いとも簡単に手袋は紅に染め上げられた。
「回復も出来ないの。此までの間、怪我をした時はどうしていたの」
「治るのを待つだけです」
少し唇を開くと、口腔内に鉄の味が広がり、思わず顔をしかめた。
「……丈夫なのは良いことだけど、ねえ?」
救済者の手が彼女の額に伸びる。
この空間に不釣り合いな、暖かい光が広がった。
流れていた血は今滴ったのを最後に視界を赤く染めるのを止め、
額に感じていた突き刺すような痛みも収まる。
未だに濡れている前髪をかきあげて、少しだけ目を開く。
「ありがとう、ございます」
ええ、と少女は笑った。
外見が一見同じ位に見えていても、生きてきた時間は黒髪の彼女が断然多い。
しかし、その笑みは何処と無く、年頃の少女のようにも映って見えた。
「貴方は、何故私を可哀想に思うのですか」
ふと、番人は訊ねる。
すると、やや驚いたように彼女は紫の目を開いて、それからまた微笑んだ。
「望みもしない力を与えられて、まるでイケニエのように一人孤独に放り込まれて、助けてくれる人もいない。───答えになってるかしら」
「それならば、私も貴方を可哀想に思います」
数度の瞬き。
「私が?何故」
「だって、貴方も同じでしょう。世界が終わる日まで孤独に眠り、その日が来た時には死を迎えてしまう。
私と、同義です」
暫くの間の後、救済者はまたくすくすと笑い始めた。
何がそんなに可笑しいのかと言っても、彼女は笑い止まない。
「…いえ、ただ、私を可哀想に思ってくれる人がいるなんて、吃驚して、ちょっと嬉しくて、ちょっと可笑しいだけよ」
普段から咆哮や怨詛の言葉しか響かない空間に、笑い声。

──でも、何と悲しい事なのかしら。

哀れにすら思われない、沈黙の救済者。
そして、自分を哀れと気付けなかった番人。
「私たちは独りだから、仕方がない」
彼女の頭の中を読んだかのように、黒髪の少女は言った。
「私たちは、ヒトだもの。常に孤独と戦わないと、心だって無くなるわ」
「─言うなれば、孤独戦争、ですね」
「ただし、私たちは既に負けているのだろうけど」

小さく呟いてから、救済者は笑う。
真似るように、番人も笑った。ぎこちなく感じた。
最後に笑ったのは、何時だろう。久しく使わなかった頬の筋肉が、痛かった。


*****

これはセーラームーンなのか……。
番人成り立ての少女プーと、ずっと昔から土星にいるサターンの話。
これが成長して、大人プー様になるわけですね!



あきゅろす。
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