王子さまにはなれないね
「はあ。男装コンテストですか」
至極どうでも良さそうにせつなはチラシを一瞥した。
チラシには、今彼女が読み上げたコンテストのタイトルがどでかく載っており、
『No.1のイケメンガールは誰だ!?』なんて、よく考えたら矛盾しているようなフレーズが印刷されている。
ちなみにチラシには前回の優勝者のイケメンスマイルが載っていた。ファンには堪らないだろう。
「せつな、出てみない?」
「嫌です」
その前回の優勝者の誘いをせつなはキッパリ断った。
その返答も予想の範囲内だったのか、特に落ち込むことなくはるかは続ける。
「優勝したら賞金10万だよ?せつななら結構イイ線いってると思うんだけどなあ」
「いや、私なんかより的確な人が目の前にいるじゃないですか」
「僕は今年は審査員なんだ。あ、身内びいきなんかしないから安心してよ」
「だから出ませんってば。大体何で私なんです」
「僕には分かるんだ、優勝出来るのは君しかいない」
「本心は」
「……………面白そうだから」
「却下」
せつなはにべもなく断った。
「そこを何とか!!」
「却下」
「……実は、もうせつなでエントリーしちゃったんだ!」
「デッドスクリーム」
同居人による強制参加が決まり(とりあえずはるかは冥王星に代わってお仕置きした)、
せつなは自室で先ほどのチラシを持って頭を抱えた。
大体自分のどこに男装できる要素があるのか。
しかし辞退するにはもう遅い。開催日時は三日後だった。
「男装………男装って。どんな格好が男装なのよ」
男装の麗人といえばそれこそ先ほどお仕置きしたはるかだが、
彼女は最早別格ではなかろうか。
「………とりあえず、髪ほどいてみようかしら」
鏡を覗いて、まずお団子にしていた髪をほどいた。
オリーブ色の髪がさらに広がる。
しかしこれだけでは全く変化がない。
逆に男装から遠ざかったようにも感じる。
「……………どうしたものですかね」
腕を組み、唸るせつなの脳内にふと、自分のよく知る男性の像が浮かび上がった。
黒いシルクハットに黒いタキシード。
白い仮面に隠すのは地球のような青い瞳。
そして、黒いマントを翻し、颯爽と現れてはセーラー戦士の窮地を救う薔薇の騎士。
「……………これだわ!!!!」
「いや……ひどい目にあった。ててて」
お仕置きからようやく目覚めたはるかは、頭を押さえながら廊下を歩いていた。
とりあえずせつなに謝るか、と彼女の部屋を目指しているのだ。
その時、
「────……!!」
突如戦士の勘が働き、本能的に一歩後退する。
果たしてその勘は当たり、はるかが先ほどまで踏み出していた場所に、何かが突き刺さっていた。
これは…………
「薔薇………?」
薔薇を投げる人物と言えば心当たりはある。
しかし、この外部戦士の家に彼がいるはずが無い。
「誰だ!!」
はるかの鋭い声に答えるように、廊下の突き当たりから現れた影。
「……私の名前はディメンション仮面。泣いているばかりでは何も解決しませんよ、セーラーウラヌス」
黒いシルクハットに黒いタキシード。
白い仮面に隠すのは全てを知る深き赤褐色の瞳。
そして、黒いマントを翻し、オリーブ色の髪を靡かせ、颯爽と現れた彼女は薔薇の騎士。
「…………」
「…………」
「………私なりに、必死に考えたんです」
「………大丈夫、分かってるよ。でも、それはやめようかなー、なんて」
「………ですよね」
「何か、ごめん」
「……………」
****
そして結局、はるかと二人で考えた結果、今流行りの執事の格好をして出場することになりました。
ネーミングセンスに突っ込むなって言ってるでしょ!!!
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