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散り失せたって本望だ

硝子の向こうを見れば、赤みかかった不気味な雲が空に広がっている。
至るところを黒い稲妻が走り光った。

この部屋は何かの仕事場だったのだろう。デスクには様々な資料が積み重なっている。
そして、気絶して床に倒れた傷だらけの異星人と、同じく気絶したセーラームーン。
ただし、彼女を守る四人が居ない。
それが何を意味するのか。


プルートには、未来が見えなかった。
果たして自分たちはギャラクシアを倒せるのか。
それとも、

(……私らしくもない)

あらゆる時代を生きた自分、死とは常に隣り合わせの生活だった。
その自分が今更恐れるものなどない。
ギャラクシアを倒せるのなら、この命惜しむものか。

寝息が聞こえて、プルートは視線を下に向けた。
「よく眠ってますね」
胸の中で眠る謎の小さな戦士のあどけない寝顔を見ながら、小さく呟く。
「最後にキスをしておけば良かったかしら」
背後から声がして、ふ、と我に帰った。
「……誰に?」
「あなたに」
「ウラヌスに叱られても知りませんよ」
突拍子もない発言だったが、プルートはそれを妙に冷静に返答出来た。
この状況が彼女をそうさせているのかもしれない。
そのウラヌスは今、サターンと偵察に出ている。
この部屋には必然的に会話を交わすのは彼女、ネプチューンしか居ない。
「……もう、最期かもしれないじゃない」
覚束無い足取りでこちらに近づいてくる。
その表情に恐れはないのに、まるで何かを焦っているよう。端的に言えば切羽つまったようだった。
「あなたらしくもない。どうしたの、ネプ」
言葉が途切れたのは、突然身体を温もりが包んだから。
気がつけばプルートの身体は抱擁の戦士に抱き締められていた。
エメラルドグリーンの髪がプルートの視界を奪う。
漂うのは彼女の香り。
「……ネプチューン?」
「………」
「………みちる、どうしたの?」
肩の向こうに頭があるため、表情は分からない。
ただ、プルートを抱き締める腕が微かに震えていることだけはわかった。
「…せつな、……私、あなたが、怖い」
「……………え?」
怖い、という言葉に思わず間の抜けたような返答をしてしまう。
自分の何が怖いというのだろう、プルートには皆目検討つかない。
しかし、次にネプチューンが紡いだ言葉は、彼女の思考を停止させるには十分だった。

「あなた、……死ぬ事を何とも思っていないでしょう」



「私だって、この地球を救う為なら何だって出来るわ。
ただ、あなたにしてみたら情けないだろうけど、私。死ぬ事への恐怖は拭えない」
それもその筈だ。
彼女がいくら外部太陽系の戦士で、使命に忠実であっても、
ネプチューンは、海王みちるはまだ十代半ばの少女なのだから。
その事を情けないと思うはずが無い。
「でも、あなたは違う。あなたは平然と死を受け入れている。
だから怖いの。たった今抱き締めている筈のあなたが、まるで蜃気楼のように消えてしまいそうなんですもの」
プルートは何も告げる言葉が無かった。否、告げられなかった。

何故なら彼女の言っていることは正しかったから。

死への恐怖など心に残されてはいない。
番人の心にあるのは、世界を救うことだけ。

「あなたは幾多の時間を生きてきたから、私なんかとは違うのは分かってるの。分かってるのよ。
でもお願い。少しでも、自分を大切にして頂戴」









彼女と交わした会話を漠然と思い出しながら、プルートはただ冷静に、自分の体から空に昇る粒子を見上げた。

(あなただって、自分を大切に出来ていないでしょう)

彼女達は自らの手を汚してまで、世界を救う道を選んだ。
余裕綽々な表情を浮かべる二人を見る。
本当は断腸の思いだったろうに。
(ああ、私はあなたの心に傷を残してしまうわね)

彼女に手を掛けさせてしまった事だけを後悔しながら、私は消滅を待った。
自ら亡びれば、彼女を傷付けることもなく世界も救えたのかもしれないのに。

*****
タイトル的にもうシリアス方向にしか転ばせられない私を許してください。


プー様は何の疑問もなく最後の選択の方が正しかったと思っているけど、ネプ嬢は、って話。

ウラネプもあまり躊躇わないけど、それでも感情としてはあると思うんだよな……。




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