一方通行



素敵な恋に憧れてた
恋愛小説や少女漫画みたいに全部が上手くいくなんて思ってなかったし、恋に障害はあって当然だと思ってた。だから失恋しても私とあの人は合わなかったんだって自分に言い聞かせてた。素敵な恋に出会うための障害だって言い訳してた悲しくなかったわけじゃない。何度自分の想いを口にしても叶うことがなくて、だからその痛みに慣れてしまっていた。大きくなれば素敵な恋が私を待ってる。期待してたのに、私は今までで一番辛い恋をしている。


「…い、……おいっ!」

「ほ…?」

「橘、起きろ」


とんとん、と肩を叩かれて目を開けると目の前にはふわふわとしたオレンジの髪の毛。まだ半開きの目を擦りながら体を起こす。ちゃんと目が開いて一番最初に見えたのは直獅先生の怒ったような呆れたような表情だった。そんな表情を見てそういえば今授業中だったなぁと心の中で思い出す。クラスメイトの笑い声も聞こえてきて、段々私の思考回路が回りだした。そう、今は授業中。


「最近授業中の居眠り多くないか?」

「…そんなことないですよ」

「そうかぁ?んじゃ、あと15分、寝るなよ」


時計を確認すると授業は大体あと15分。重たい身体を起こし、目を擦りながら視線を前に集中させる。身長が低いのにわざと高いところに書こうとする直獅先生。背伸びしてるから少しだけ足元が震えている。そんな先生を見て私は思わず笑ってしまった。身長が高くなるように毎日牛乳を飲んでるとことか、食堂のおばちゃんに言ってカルシウムが多い定食を作ってもらってるとか、全部可愛い。すごく情に熱いとこも、生徒と一緒にふざけてるとこも、全部好き。恋愛感情で、直獅先生が好き。

最近居眠りが増えたのは本当。でも、直獅先生に声をかけてほしいから授業中居眠りしてます、なんて言えるわけがない。どうして直獅先生は私の先生で、私は直獅先生の生徒なんだろう。同級生ならよかったのにって何度も思った。身長は小さいくせに中身は十分すぎるくらい大人で、ちょっとむかつく。


「先生のばぁーか…」

「橘っ、お前今馬鹿って言わなかったか!?」

「言ってませーん。先生幻聴が聞こえたんじゃないですか」


からかう言葉を付け足せば、ノリの良いこのクラスはたちまち沢山の声に包まれる。楽しそうに生徒たちとやりとりする直獅先生を見て私の気持ちは膨らんでいく。いつか弾けてしまうんじゃないかってくらい大きくなっていく。

同級生や先輩を好きだった頃は簡単にこの気持ちを言葉にすることが出来た。叶わないってわかってたけど、言葉にするとすごく楽になった。でも今は違う。叶わないってわかってる、でもこの気持ちを言葉にしてあなたに届けることも許されない。私の想いはどこへ行けば良い?


先生と生徒は、一番近くて、一番、遠い




一番近いのに、一番い存在だった
(答えなんて期待してない、ただ私に気付いて欲しいだけ。お願い先生、こっちを向いて)







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