独占



孝介に彼女ができた。
それを聞いたとき、悔しいとか悲しいとか、そうゆう感情は一切なかった。「ふーん、そうなんだ」得に関心もなく、友達には酷く驚かれた。理由を聞くと葉月は泉君のこと好きなんだと思ってた、と言われた。好きだよ、孝介のことは。でも、たぶん私の感情は固定した愛とかじゃなくてもっと曖昧なものだと思う。ただ、ずっと一緒に居られれば…。



「葉月宿題見して」

「あーはいはい、プリン一個でいいよ」

「高くねぇ?」

「昨日眠いのにどうせ孝介はまた見せてとか言うと思ったから必死でやってきたんだけど?」


野球部は朝早くからびっくりするくらい夜遅くまで練習している。帰ってきたらご飯食べて寝るだけ、そんな生活をしている孝介のために私は毎日欠かさず宿題をやってくる。孝介のためだ、なんて言うのは恥ずかしいから言わないけど。


「泉くん…」


教室のドアのところに立っていた小さな女の子が孝介の名前を呼んだ。噂の孝介の彼女だ。初めて見たけど、私はあまり好まないタイプの子だった。自分の可愛さをわかっていてそれを利用する。そうゆうタイプの女の子は嫌いだ。孝介は彼女に気付くと小さく笑って話し掛けに行った。

そのとき初めて悔しいと思った。こんな子より、私のほうがずっと孝介を知っている。孝介の好きなものも嫌いなものも座るときのくせも手が温かいことも、私のほうが孝介をわかっている。つい最近孝介を知ったあの子なんかに、孝介を渡したくない。私だけが知ってる孝介の顔を知られたくない。


「葉月?どうしたの?」

「え、え?」

「泣きそうだよ?」


そんなことないよ、口に出した言葉は音にならなかった。今声を出したらないてしまいそうだった。鼻の奥が痛くなって、本格的に泣きそうになった。今更気付いた。ずっと一緒に居たいと思うのは、それは独占したいからでしょう?笑顔を見られたくないと思うのは自分だけの秘密にしておきたいからでしょう?孝介が好きだから、その笑顔を独占したいと思うから悔しいんでしょ?


「っ…」


泣くのは、孝介が好きだからだよ。そう自分に言い聞かせた。私のほうが孝介をを知ってて、孝介も私のことをよく知ってる。そんなことを考えたら少し笑えた。もっと早く気付いていたら、もっと早く自分の気持ちに素直になれたら、何かが変わってたもしれないのに。


ごめんね孝介、好きだよ。




を愛する私を愛して
(今更遅いってわかってるよ)





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あきゅろす。
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