11月29日、日曜日


高校生にもなると、自分の誕生日なんて憶えていない
ましてや、今の俺の頭の中は野球一色なわけで
朝、おふくろに言われて気付く、「あぁ、そういえば」そんな感じ


「孝介ーっ、お風呂入ったらー?」

「んー、」


誕生日だからと言って、特になにをするわけでもなく
もう高校生なんだし、まぁ、ケーキくらいは食べるけど…


「誕生日、か」


風呂を上がって頭を拭きながらベットに腰掛ける
誕生日、たんじょうび、誕生、日

年齢には勝てないけど、やっぱりなんとなく寂しい気がする
小学生の頃とかは、やっぱり誕生日は特別な日で、来るのが待ち遠しかった


「仕方ないっちゃ、仕方ねーんだけどさ」


ごろん、とベットに寝転がると耳元で携帯が震えた
少しだけ驚いて通話ボタンを押す


『もしもし?』

「は?」


思わず、気の抜けた声が出てしまった


『酷い反応だね』

「…びっくりした」


くすくすと彼女が笑う

久し振りに聞く、彼女の声
この前電話した時よりも大人びいた声になっていて、少し緊張する


『久し振りだね、本当に』

「そう、だな」


野球部の練習は毎日厳しくて、練習から帰ってくると疲れていてすぐベットにダイブ
彼女はそんな俺を気遣って電話やメールは控えていた


「ごめんな、俺のせいで」

『大丈夫。それに私、孝介の野球してる姿好きだもん』


彼女の転校が突然決まって、一緒に居る時間は学校だけだったのに、その時間もなくなってしまって
そろそろ愛想尽かされるかと覚悟していたのに、彼女の声は怒る様子もなくとても優しい


『田島達、元気?』

「あ、あぁ、元気。」


もしかして誕生日だから電話してきたのか?と思ったが彼女は一向にその話を出そうとしない
もしかして忘れてる?いや、それはない……と思いたい


『風邪とか引かないでね?』

「だいじょーぶだろ」


もしかして彼女は本当に忘れているんじゃないだろうか
そんな不安が俺の胸を押し潰しそうになる


「あの、さ」

『着いたっ』

「は?」


彼女の声とインターホンの音が重なった
一瞬耳を疑う

まさか、まさか…―――


そんなはずない、そう思ってるけど本当は期待してる
階段を駆け下りて、玄関の扉を思いっきり開ける


「『誕生日おめでとう、孝介』」


右耳にあてていた携帯の声と、左耳に聞こえる声が重なった


「ごめんね、会いにきちゃった」

「…っ」


目の前にいる彼女を強く抱き締める
あぁ、これは夢じゃない


「痛いよ、孝介」

「…っ、ばーか」


彼女は小さく笑った




11月29日、日曜日
(君がいれば、なにもいらない)




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企画「IZTN」様に提出
少し遅れました!!



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