1分


「………」

「………」


あれから2時間後本当に泉は私を迎えに来てくれた。驚いた声音で「ほんとに待ってたんだ」っと小さく言っていた。なによ、待ってろって言ったのはそっちじゃない。泉は自転車を押しながら私の隣を歩いているけどさっきから会話は全くない。…まぁ当たり前だ。普段よく喋るわけじゃないので共通の話題も見つからない。何か話したいのに、自分の思った通りに口が動いてくれない。せっかく誘ってくれたのに、滅多にないチャンスなのに…このままじゃ愛想尽かされちゃう。いつもなら話題に悩むことなんかないのに泉の前だとどんな話をすればいいのかわからない。


「………っ」

「あのさ、」

「はい?!」

「つまんない?」


泉はこっちを見ずに言った。そんなことない、そう言いたいのに言葉が出てこない。


「無理矢理誘って悪かった」


なんで泉が謝るの?泉は悪くないよ悪いのはなにも言えない私なのに。なんでそんな申し訳なさそうな顔するの?私が好きで待ってただけだよ。泉と一緒に帰りたかったから待ってたんだよ。泉は悪くないよ、だからそんな顔しないで。


「私が泉と帰りたかったの。無理矢理じゃない、誘ってくれて嬉しかった」

「…そっか」


泉の隣に立って一緒に歩いてみて気付いた。うちのクラスでは小柄な泉だけど、私と比べると大きい。少し前を歩く泉の顔は私の目線からだとよく見えない。遠くから眺めてるだけじゃ気付かないこと。もっと、もっと泉のことが知りたい。この人の、特別になりたい。ほんの5ヶ月前までは遠くから眺めてるだけでいいと思ってたのに、少しずつ会話をするようになって知らなかった泉を知って。もう眺めてるだけじゃ満足できなくなってしまった。…それは幸せな変化だろうか?


「いずみ、」


君にずっと言いたかったことがあるんだ。



「泉が好きだよ」



彼と彼女が恋人になるまであと1分
(そして彼と彼女の距離は0になる)



「俺も、お前が好きだ」




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あきゅろす。
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