2時間


ふっと目を覚ますと外はもう真っ暗だった。一瞬訳が分からなくなり思考が停止したが、目の前に広がってるプリントを見て思い出した。宿題を学校で済ませようと思って頑張ったけど、どうやら眠気に負けたみたい。時計を確認すると18時37分。メールは3件、ひとつはくだらない迷惑メールで残り2つは母親からの居場所確認メール。一応心配はしてくれてるみたい。取り合えず母親にメールを返えして、帰る準備をする。もうこんな時間だ、残ってる生徒もいないだろうし誰に迷惑をかけるわけでもない、ゆっくり帰ろう。


「…野々宮?」

「あれ?どうしたの?」


急に声をかけられて少し驚いたけど、その声を聞いて胸が高鳴った。顔なんか見なくてもわかる、ここ最近この声を聞くためだけに学校に来てるんだから。表情が緩まないように笑顔をつくる。大丈夫、これはいつもの笑顔だ。


「俺は忘れ物を取りに。お前は?」

「宿題してたら寝ちゃって…こんな時間に」

「マジかよ」


泉はくすくすと声を出して笑った。恥ずかしかったけど、今ここでこの笑顔を見てるのは私だけなんだと思うと嬉しくなった。今日のこの笑顔は私しか知らない。見たいドラマややりたいことはいっぱいあったけど、泉の笑顔を独り占めできたからもうどうでもよくなった。…顔に出ないようにしなくちゃ。私は告白する勇気なんてないし、他の子みたいに自分に自信もない。大体こんな女っ気のないやつ、誰が好きになるんだか。もし気付かれて今の距離でいられなくなったら困る。私は眺めてるだけでいいんだから。


「じゃあ、私帰るね」

「……なぁ」

「ん?」

「あと2時間、待ってて欲しいんだけど」

「え?」

「つーか、待ってろ」


泉は私の返事も聞かずに出て行ってしまった。待ってろって、一緒に帰ろうってこと?…期待、していいの?本当に2時間待ってるからね?



彼が彼女と一緒に帰るまであと2時間
(ずっと待ってるから、ちゃんと迎えに来て)




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あきゅろす。
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